毎年6月〜7月にかけて、メトロポリタン・オペラハウスではAmerican Ballet Theater (ABT)による’バレエ公演が行われます。今年もいくつかの公演を観に行きました。
「白鳥の湖」
1. 基本情報
作品名:Swan Lake(白鳥の湖)
作曲: Peter Ilyich Tchaikovsky(ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)
振付:Kevin McKenzie after Marius Petipa and Lev Ivanov
バレエ団:American Ballet Theater
観劇日時:2024年7月3日 午後2:00 〜 4:30
劇場:Metropolitan Opera (30 Lincoln Center Plaza)
改めて説明するまでもない古典バレエの代表作です。
この数年私は毎年ABTの「白鳥の湖」を観ていて、去年(2023年)のブログで公演の内容や感想を紹介しました。ここでは、今回観た2024年の公演の感想などを紹介します。
2. あらすじ
私の去年のブログで、あらすじをご確認ください...。
3. 感想
音楽や踊りの素晴らしさ、ステージ演出の美しさなど、去年も述べたとおり今更言うまでもありません。
今回、オーケストラ席の前から6列目という結構良い席を取りました。舞台に近いと、ダンサー達の体の筋肉、顔の表情、息づかいなどがよく見えて、やっぱり良い席で観ると臨場感が違います。
ただし、メット劇場のオーケストラ席前方は観客席の傾斜がほとんどなく、自分の前に背(座高)の高い人が座ると、前の人の頭で舞台が遮られることもあり...注意が必要です。
ちなみに、メットで一番高いのは2階のParterre席のようで、たくさん寄付をするような常連さん達はだいたいその辺りで観てるのでしょうね。
最後にとても感動的な出来事がありました。本公演で主演のオデット/オディール役を務めたChloe Misseldineというバレリーナは、 本公演の時点ではABTのSolist(バレエ団で上から二番目)でしたが、終演後のカーテンコールの際にABTのArtistic Directorが舞台に登場し、「Chloe は今をもって、SolistからPrincipal(バレエ団の最高位)に昇格しました!」と発表しました。会場は拍手喝采で彼女の昇格をお祝いしました。
実際、Chloeさんのダンスには情感が込められていて、長い手足の先まで神経が行き届いた動きが優雅で素晴らしかったです。はっきりしたお顔立ちをしていて(メイクのせいもあるでしょうが)、白鳥オデットより黒鳥オディールを演じているときの方がハマっている気がしました。
王子ジークフリート役をやったのは、Aran BellというPrincipalダンサーでした。去年私が観た「白鳥の湖」でも彼が王子役でした。個人的には、今のABTの男性Principalの中では「王子様」役が一番似合うルックスをしていると思います。
「ロミオとジュリエット」
1. 基本情報
作品名:Romeo and Juliet(ロミオとジュリエット)
作曲: Sergay Prokofiev(セルゲイ・プロコフィエフ)
振付:Kenneth MacMillan
バレエ団:American Ballet Theater
観劇日時:2024年7月13日 午後2:00 〜 5:00
劇場:Metropolitan Opera (30 Lincoln Center Plaza)
おそらく知らない人はいないであろうシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」をもとにしたバレエ。
これまでに演劇、オペラ、バレエ、映画とあらゆる芸術分野で作品化されていて、「ウェストサイド物語」のように本作からインスパイアされた別作品もたくさんあり、改めて創作者の創作意欲をかきたてるテーマなのだと思います。
イタリアを舞台にしたお話をイギリスの作家が書き上げ、ロシアの作曲家が作曲し、様々なヨーロッパエッセンスが融合してできたバレエ作品です。ちなみに、ABTの公演での振り付けはKenneth MacMillanというイギリスの振付師によるものでした。
2. あらすじ
第1幕
舞台は15世紀のイタリアのヴェローナ。名門のモンタギュー家とキャピレット家が敵対し、争いを繰り返している。
ある夜、モンタギュー家の青年ロミオはキャピレット家の舞踏会に忍び込み、キャピュレット家の娘ジュリエットと出会う。二人は一目で恋に落ちる。
ジュリエットの部屋のバルコニーで二人は愛の言葉を交わす。
第2幕
許されない恋と知りながら、ロミオとジュリエットは神父ロレンスのもとで二人だけの結婚式を挙げる。
街の広場で両家の争いが起こり、ロミオの友人マキューシオがジュリエットの従兄ティボルトによって殺される。怒ったロミオは友人の仇をとってティボルトを殺し、街から追放となる。
第3幕
ジュリエットの寝室で二人は一夜を過ごすが、夜が明けるとロミオは街を去る。
両親に別の人との結婚を迫られたジュリエットは、神父ロレンスに助けを求め、仮死状態になる秘薬を手に入れる。薬を飲んで死んだように見せかけ、目覚めてからロミオと一緒に駆け落ちする計画を立てる。
しかし、街に戻ったロミオは仮死状態のジュリエットを見て、本当に死んだと思い、絶望して自ら命を絶つ。
やがて目を覚ましたジュリエットは、そばで息絶えたロミオを見て、短剣で胸を突いてあとを追う。
3. 感想
時代を超えて愛されたストーリーには普遍性があり、また展開が劇的であることから、観客として物語に感情移入しやすいです。
と言いながら、今回改めてこの物語に触れ、若い二人があっという間に恋に落ち、結婚し、そして死んでいく急展開に、「そんなに生き急がなくても...」などと思ってしまいました。年をとった証拠でしょう...。
プロコフィエフによる音楽は壮大で重厚感があり、また物語の展開に合わせてドラマティックでした。特に第1幕での「騎士たちの踊り」は有名で、どこかで聞いたことがある人も多いと思います。
(「ロミオとジュリエット」の音楽と言えば、映画版の主題歌になったニーノ・ロータの「愛のテーマ」も有名ですよね。映画の方の音楽はとても甘美です。)
踊りも音楽と一体化したように、各シーンの展開に合わせて時に重厚で時にドラマティックでした。ロミオとジュリエットの二人によるパ・ド・ドゥがやはり見どころだと思いますが、個人的には両家の男達が(フェンシングみたいに)カンカンと音を鳴らして剣を交わす決闘シーンも印象的でした。
また、他のバレエ作品と比べると、特にダンサーの演技力が要求される作品だと思いました。
それから、ダンサー達が着ていた中世イタリアの衣装は目の覚めるような鮮やかさでした。
「Woolf Works」
1. 基本情報
作品名:Woolf Works
作曲: Max Richter
振付:Wayne McGregor
バレエ団:American Ballet Theater
観劇日時:2024年6月26日 午後7:30 〜 10:00
劇場:Metropolitan Opera (30 Lincoln Center Plaza)
イギリスの女性作家ヴァージニア・ウルフの小説をモチーフにして創作されたコンテンポラリー・バレエ作品。2015年に英国ロイヤル・バレエでのために作成されたもので、メットでのABTによる公演は今回が初とのことでした。
2. 内容
ヴァージニア・ウルフによる3つの小説をもとにした3幕から成るバレエ。それぞれの小説のあらすじを追うというより、ウルフの小説が描く感情、テーマ、そして「意識の流れ」がダンスで表現される。
第1幕
「ダロウェイ夫人」より「I now, I then」
第2幕
「オーランドー」より「Becomings」
第3幕
「波」より「Tuesday」
3. 感想
そもそも、私はヴァージニア・ウルフの小説を読んだことがなく(「ヴァージニア・ウルフなんか怖くない」という映画は観たことありますが)、このバレエに関する事前知識もなく、たまには古典バレエではない新しい作品も観てみよう、くらいの気持ちで観に行きました。
観た感想としては、やはり内容を知らないので何を表現しようとしているのかは正直よく分かりませんでした(汗)。Playbill(劇場でもらえるプログラム冊子)にもあらすじの詳しい説明の記載はなく、何らかの事前準備をしておくに越したことはなかったと思いました。
メモ程度に素人目線の感想を。
- 第1幕「I now, I then」:小説では上流階級の女性の一日を描いているとのことですが、登場人物が終始物憂げに見え、苦悩を抱えている様子が踊りで表現されているようでした。
- 第2幕「Becomings」:三世紀もの間老いずに生きる人物のお話だそうですが、近未来的なダンサーの衣装やステージング(舞台上でスモークが炊かれ、レイザービームが飛び交う)がとても印象に残りました。
- 第3幕「Tuesday」:ダンサー達による群舞が波のうねりを表現していて、第2幕とは対照的な静的美しさがありました。その波に飲まれていくのはウルフ自身(実際に入水自殺したそう)だそうで、悲しい最後でした。
本作はWayne McGregorというイギリスの振付師によって振り付けされています。Wayneさんは自身のカンパニーを持ちながらロイヤル・バレエの常任振付師でもあり、世界的に活躍する鬼才振付師とのこと。この辺りのことも先に知っておけば、もっと楽しめただろうなぁと思います。
ちなみに、私が観劇した日が6月のLGBTプライド月間の最終週だったこともあり、カーテンコールではダンサー達がレインボーフラッグを持って出てきました。本公演でメインの役を踊ったJames WhitesideというPrincipalダンサーは、自身がゲイであることを公言しています。