前回は貯蓄のポイントなどについて書きましたが、今回は貯まったお金をどうやって増やしていけるかについて触れたいと思います。
前回、以下の式を紹介しました。
収入 − 支出 = 貯蓄 (もしくは、収入 − 貯蓄 = 支出)
これを少し進化させて、資産形成の公式は以下のとおりです。
資産形成 =(収入 − 支出)+(資産 × 運用利回り)
私が「お金に働いてもらう」という言葉を最初に知ったのは、ロバート・キヨサキ氏著のベストセラー「金持ち父さん貧乏父さん」からでしたが、今はどこかしこでこの言葉が使われていますね。お金を自分 の懐から取っていく「負債」ではなく、お金を増やしてくれる「資産」を買えということです。
では、どのような資産を買えば良いのでしょうか・・・?
株式への投資
資産形成のための投資を考えるとき、まず思いつくのは株式投資だと思います。
私達は、会社の「株」を買うことで会社の所有者の一人になることができ、その利益から配当金を受け取る権利をもらえます。株式市場に上場されている会社の株は、誰でも自由に売買することができます。
ある会社の株に投資するということは、その会社の将来に自分のお金を託すということでもあり、なかなかリスクを伴う行為です。その会社に将来性があるか、投資に値するかを判断するために、過去の業績や未来の予測について色々調べるのは骨の折れる作業であり、個人で分かる情報の範囲も限られます。誰もが知っている大きな株式会社(世界的にはアップルやアマゾン等)の株であっても、市場全体の動きや会社固有の事情によって株価は大きく変動します。株式投資を始めたばかりのような人は、毎日の株価の値動きに翻弄され、不安になったり合理的でない売買をしてしまいがちです。
特にこの2020年は、新型コロナウィルスの感染拡大のために、2月後半から3月にかけて株式市場全体が暴落しました。多くの国の証券取引所にはサーキットブレーカー制度があり、一定の基準を超えて株価が大幅に変動した場合取引が一時的に停止されることになっているのですが、この時期にはニューヨーク証券取引所などでサーキットブレーカーが何度も発動されました。
株式市場は4月以降に急回復しました。以下のグラフは、アメリカ株式市場の代表的な指数(インデックスと言う)、Dow Jones、S&P 500、Nasdaqの2020年の推移を示しています。Dow Jonesは、アメリカの代表的な30企業の株価を元に計算され、「NYダウ平均株価」としてニュースでも取り上げられていますが、今アメリカ市場全体の動きを示す指標として最も参照されているのはS&P 500の方でしょう。S&P 500はアメリカの株式市場に上場している代表的な500銘柄で構成されています。また、Nasdaq総合指数はハイテクやネット関連の上場企業の株価指数です。
(Source: Yahoo! Finance)
青がDow Jones、紫がS&P 500、水色がNasdaqです。いずれの指数でも、年始から最大で25%〜35%の暴落を記録したものの、4月以降は順調に回復基調を見せています。7月末の現時点で、Dow Jonesはまだ年始の水準を下回っていますが、S&P 500はほぼ年始のレベルまで戻りました。Nasdaqに至っては、6月に年初来高値を更新し、以降も史上最高値を更新し続けています。
新型コロナの第2波の拡大が懸念され、その他にも米中対立など不安定要素が満載の今、なぜ株価が上がっているのか?全く実態を反映していないのではないか?と疑問を持つ人も多いようです。ここであまり細かい話はしませんが、今世界中の国が経済支援策としてお金をどんどん刷っていて、それが株式市場に流れているという要因があるようです。
つまり、ここで言いたかったのは、株式投資は短期的にはリスクが高いということです。ここでのリスクとは「値動きのブレ幅」のことです。一方、長期的に見れば、アメリカ株式市場全体(S&P500)は約6〜8%の平均リターン(どの時点から計算するかによる)を出しています。長い目で資産形成を見据えた場合、株式投資を選択肢に入れるべきだろうと考えます。
また、ひとつの会社よりも複数の会社の株式に投資することで、値動きのリスクを分散することができるのですが、それを自分でやる代わりに投資運用会社が銘柄を選択・運用してくれるのが「投資信託(Mutual Find、単にファンドとも呼ばれる)」です。投資信託では、運用会社が我々のような投資家から広くお金を集め、それを株式や債券などに投資し、その運用成果を我々に分配してくれます。我々は手数料を運用会社に支払います。
その投資信託が市場に上場され、株と同じように中のリアルタイムで取引可能になったものが「ETF(Exchange-Traded Fund、上場投資信託)」です。簡単に言えば、様々な株の詰め合わせセットが市場で売買されている感じです。ETFには、上記のS&P 500・Nasdaqといった米国株式インデックスに連動するもの、日経平均などの日本株式インデックスに連動するもの、その他各国・地域の株式市場に連動するもの、金融・ヘルスケアといったセクター別の株式に連動するもの、など幅広い選択肢があります。
さらに、株式だけでなく、債券やコモディティ(金・銀・プラチナ等)の価格に連動するETF、REIT(不動産投資信託)のETFもあります。
自分で銘柄を選んで投資するのが楽しい、自分が応援したい会社がある、といった理由が特段なければ、一般の多くの人にとってはファンドやETFに投資する方が簡単で手間がかからず、リスクも抑えられ、お勧めと言えます。
資産形成において、リスクを抑えながら安定したリターンを実現するための投資手法として、以下の3つがあります。
- インデックス投資
- ドル・コスト平均法
- 長期投資
それぞれについて、解説していきたいと思います。
1. インデックス投資
自分で個別株を選ぶより、投資のプロが運用するファンドやETFを選んだ方が、手間の観点からもリスクを抑える観点からも良いと先程述べました。ただ、ファンドと一口に言っても多くの選択肢があります。
結論から言うと、アメリカ株式インデックス、S&P500連動のETFに投資するのが一番良い!と広く主張されています。私がアメリカに住んでいるから言っているのではなく、日本でも同様に推奨されているようです。
まず、何故インデックスへの投資なのか?
世に出回っている様々なファンドの中には、市場全体を超える運用リターンを目指すActive Fundと呼ばれるものと、市場全体と同じリターンを目指すPassive Fundと呼ばれるものがあります。Active Fundでは、運用会社が実際の価値より割安で取引されている銘柄を探す(バリュー投資と呼びます)など、様々な分析や売買の手間がかかるため、運用会社への手数料(信託報酬)も高めです。一方、Passive Fundでは、市場全体の動きを示すインデックスに含まれる銘柄と同じものに投資すれば良いため、手間も少なく手数料は安めです。株式インデックスファンド(ETF)は、まさにPassive Fundの代表です。
投資に関する名著であるバートン・マルキール著「ウォール街のランダム・ウォーカー」や、チャールズ・エリス著「敗者のゲーム」等では、Active Fundで短期的に高いリターンを出すことはあっても、長期的にはPassive Fundの方が高いリターンを出しているという研究結果が示されています。
我々多くの素人の立場からすれば、投資のプロが運用するファンドに投資するより、株式インデックスに連動するファンドに投資する方が、リターンが高くて手数料も安いのであれば、インデックス投資をやった方がいいに決まってます。
では、何故アメリカ株なのか?
アメリカが世界最大の経済大国であることはもちろん、欧米や日本の他の先進国の中でも人口が増え続けている数少ない国です。また、近年の世界経済をリードしてきたいわゆるGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)は全てアメリカ企業です。これらの企業の利益はアメリカだけでなく世界中から生み出されています。他にも、アメリカの企業では配当や自社株買いといった形で株主に利益を還元する文化が根付いています。
中国をはじめとする新興国ではもちろん経済成長が著しいのですが、まだ国の経済(通貨を含め)が不安定で、企業の株価もやはり不安定なところが多いです。株主への利益還元がアメリカほど根付いていないことも、投資家にとっては不安材料です。
私は、10年以上前からS&P 500のETFも新興国株インデックスのETFも保有していますが、新興国株のリターンは必ずしも高くありませんでした。もちろん、今後も同じ傾向が続くのかは誰にも分かりませんが。
以上のような理由から、アメリカ株式インデックス、つまりS&P500に連動するETFに投資することが推奨されています。ダメ押しとして、投資の神様と言われるウォーレン・バフェット氏は、自身はActive Fundの運用で長期にわたり記録的な実績を上げたのですが、遺言では管財人に対し「現金の10%を短期国債で、残り90%をS&P500のインデックスファンドで運用するように指示した」とのこと。
では、具体的なS&P 500連動のETF銘柄ですが、アメリカの主要なファンド運用会社3社(State Street, Blackrock, Vanguard)が以下のETFをそれぞれ販売しています。
- SPDR S&P 500 (SPY)
- iShares Core S&P 500 ETF (IVV)
- Vanguard S&P 500 ETF (VOO)
一番上のSPYが一番歴史が長く、運用額も最大ですが、経費(手数料)率がこの中では一番高くなっています(とは言え、0.09% は非常に低いですが)。一番下のVOOがこの中では最も新しいETFで、経費率は一番低くなっています(0.03%)。
以下のリンクからは、世界のETFの時価総額(市場での価値の総額)のTop 100を見ることができますが、Top 3 がSPY、IVV、VOOとなっていて、やはりS&P 500連動のETFが全ETF市場の中心になっていることが分かります。
https://etfdb.com/compare/market-cap/
アメリカに住んで、このようなETFが少額から購入できるというのは大きなメリットです。
ただ、日本でもこれらのETFを楽天証券やSBI証券といったネット証券で購入することができるようです。その他の証券会社でも買えるのかもしれませんが、投資系のYouTubeやブログでは楽天かSBIしか言及されていなかったので、他だと手数料が高い等の問題があるのかもしれません。
また、日本の運用会社がS&P 500に連動する以下の投資信託(ETFではない)を販売しているようです。
- SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド
- eMAXIS Slim 米国株式 (S&P500)
ただし、日本でS&P 500連動のETFやファンドに投資する場合、ドル/円の為替リスクがあり、S&P 500と全く同じリターンは期待できない(円高になれば円ベースでのリターンは減少する)ことを留意すべきです。
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