最近始まったミュージカル「Death Becomes Her」を観に行きました。
1992年に制作された同名映画がミュージカル化されたものですが、このタイトルにピンと来なくても、邦題「永遠に美しく」と聞けば、「あぁあれ!」と思い出す方も多いのではないでしょうか。ロバート・ゼメキス監督、メリル・ストリープとゴールディ・ホーン主演で、美と若さに対する女性の執着を描いたブラックコメディ映画です。
2024年5月からシカゴでミュージカル公演が始まり、11月にニューヨーク・ブロードウェイでの公演がオープンしたばかりです。
個人的な話ですが、今年の3月だったか、私がよく受けていたフィットネスクラスのインストラクター(男性)が急に辞めることになり、その理由が「Death Becomes Her」のダンサーの一人に選ばれたのでシカゴの公演に出演するためとのことでした。本人も嬉しそうで、クラスの参加者みんなで拍手で祝福しました。
ブロードウェイの公演が始まったら私も観てみたいなと思い、楽しみにしていたのですが、本公演のキャスト一覧には彼の名前がありませんでした。どうやらシカゴ公演の後キャストから外れたようで、残念...。
1. 基本情報
作品名:Death Becomes Her
作詞作曲:Julia Mattison and Noel Carey
脚本:Marco Pennette
監督・振付:Christopher Gattelli
劇場:Lunt-Fontanne Theatre (205 W 46th Street, New York, NY)
観劇日時:2024年12月15日 午後7:30〜10:00
このルント・フォンテーヌ劇場は20世紀初頭に建てられたという古い劇場で、ブロードウェイ劇場街の中では比較的大きな規模で約1500席あります。
私はメザニン席に座りましたが、この辺のたいていの劇場と同じく席の幅が若干狭めでした。
2. あらすじ
(うろ覚えの部分もあり、少し違ってたらすみません...)
前半
大女優マデリーンのもとに、旧友のヘレンが婚約者の整形外科医アーネストを連れて訪問する。が、マデリーンはアーネストを誘惑して結婚してしまう。傷ついたヘレンは精神を病んでしまう。
数年後、マデリーンは容貌の衰えに悩んでいるが、再会したヘレンは作家として成功し見違えるほど美しくなっていた。マデリーンはヴィオラという謎の女性から永遠に若くなれる秘薬を入手し、若返りに成功する。
ヘレンは、マデリーンとの生活に疲弊したアーネストにマデリーンの殺害を持ちかける。ところが、ヘレンに階段で突き落とされてもマデリーンは死なず、マデリーンに銃で撃たれてもヘレンは平然と生きている。
マデリーンと同様ヘレンも若返りの秘薬を飲んでいたのだが、それは体が傷ついてボロボロになっても永遠に生き続けてしまう恐ろしい薬だった。
後半
整形外科医のアーネストは2人の体をペンキやスプレーで修復する。2人はアーネストに自分達の体を永遠に修復してもらおうと企み、ヴィオラの元へ連れていって秘薬を飲ませようとするが、アーネストは拒否して逃げ出し、その途中で屋根から落下してしまう。
50年の月日が経ち、未だに生き続けている2人は年老いたアーネストとばったり再会する。アーネストは屋根から落下した後に一命を取りとめ、とある女性と結婚して穏やかな老後を送っているという。2人はアーネストの話を一蹴して追い払い、共に永遠に生きていくことを確かめ合う。
3. 感想など
女性の美や若さへの願望といういわば永遠のテーマが、女同士の壮絶バトルを通じてブラックユーモアをたっぷりに描かれています。主役2人のホンネ剥き出しのやり取りには、ある意味爽快感すら覚えました。観客も終始笑いが絶えない感じで盛り上がっていました。
実は、私は映画「永遠に美しく」をまだ観ていないのですが...基本的には映画のストーリーに忠実に作られているそうで、映画版が好きだった人ならミュージカル版もきっと楽しめるでしょう。私と同じく映画を観たことがない人は、観る前にあらすじを予習しておくと良いと思います。
主役のマデリーン(Megan Hilty)とヘレン(Jennifer Simard)は、最初からフルスロットルで歌いっぱなし、しゃべりっぱなしでした。アクロバティックな動きも多く、体力を相当消耗しそうに感じましたが、2人の女優さんは(それ程若い訳ではないと思いますが)見事に歌い演じ上げていました。
このショーの見どころとして、秘薬を飲んだ後の2人の乱闘シーンでは、ヘレンに階段で突き落とされたマデリーンがスローモーションで転げ落ちたり(ワイヤーアクション)、ヘレンの斧でマデリーンの首が吹っ飛んだり、マデリーンに銃で撃たれたヘレンのお腹に大きな穴が開いたり...、衝撃的な演出がたくさんありました。映画ではこういったシーンでCGが駆使されたようですが、これを舞台で実現するにはかなりの工夫が必要だったと思います。
もう一つの大きな見どころは、謎の女性ヴィオラを演じるMichelle Williamsです。Michelle は何と言っても元Destiny’s Childのメンバーとして有名です。Destiny’s Childで活動していた頃はBeyoncéの影に隠れてあまり目立つことがなかったですが、以降は「アイーダ」などミュージカルの舞台も結構経験しているようです。
Destiny’s Childの歌で聞いたMichelleの声はとてもハスキーで、個人的にはあまりミュージカル向きでないように思っていたのですが、今回生で聞いたらさすがの迫力でした。ショーの一番最初の歌「If You Want Perfection」でヴィオラとして登場すると、観客から大きな拍手が上がりました。
ヴィオラを取り巻くバックダンサー達は、ダンスももちろん素晴らしかったのですが、特に彼らの衣装がとてもセクシーで、紫を基調とした舞台のセットやライティングが幻想的な美しさを一層際立たせていました。(冒頭に書いたあのインストラクターが、このダンサーの一員として踊っている姿を見られなかったのがつくづく残念です。)
新しいミュージカルなので耳馴染みの曲があった訳ではありませんが、印象に残った曲としては、前半の最初の方でマデリーンが歌う「For the Gaze」です。マデリーンが自身のショーの中で歌う設定ですが、何度も衣装を変えてジュディ・ガーランドやライザ・ミネリ等に扮しながら、豪華なステージを見せてくれます。タイトルは「For the “Gays”」と掛けているようで、映画版のファンが多いというゲイ達が喜びそうなパフォーマンスになっています。
また、後半最後の方の「Alive Forever」は、マデリーンとヘレンがお互いを頼りに永遠に行けていかなければならない現実を高らかに(皮肉も交えて)歌い上げるナンバーで、こちらも印象的でした。
(ちなみに、この曲みたいにミュージカルの最後の方で主役によって歌われる壮大なナンバーを「11 o’clock number」と呼ぶそうです。夜のミュージカル公演の場合、ちょうど11時辺りに歌われることからこの名前が付いているとか。)
このミュージカル版の終わり方は、映画版の最後とは違うようです。映画版では、マデリーンとヘレンの2人がアーネストの葬式に出席し、そこで体がバラバラに砕けてしまうというシュールなエンディングだったようですが、さすがにそれを舞台で表現するのは難しかったのでしょう...。
余談ですが、私が観た公演で舞台のセットチェンジの際にテーブルや椅子が動かなくなり、5分ほど進行が止まってしまいました。実際どのように舞台の転換を操作しているのか分かりませんが、全てがITで自動化されている場合こういう不具合も起こりうることを改めて知らされました。ただ、観客はそういうアクシデントも含めて楽しんでいる雰囲気でした。
とにかく楽しくて煌びやかなミュージカルを見たい人にはお勧めします!