「CATS(キャッツ)」と言えば、数あるミュージカルの中でも特に人気が高い作品のひとつですが、今回新しく生まれ変わってブロードウェイに戻って来ました。アンドリュー・ロイド・ウェバー作による音楽自体は変わらないものの、ニューヨークのクィア(LGBTQ+)の間で発展したボールルーム・カルチャーにインスパイアされ、設定や演出が大胆に描き直されました。
「CATS: The Jellicle Ball」は、当初2024年夏にオフ・ブロードウェイで公演が行われていたのですが、大変な好評を得てオン・ブロードウェイに移りました。2026年3月からのプレビュー公演を経て、4月7日に本公演が始まりました。開始からまだ日が浅いものの、5月5日に発表されたトニー賞ノミネーションでは、本作が最優秀リバイバル賞を含む9部門にノミネートされ、6月7日のトニー賞授賞式に向けて受賞への期待も盛り上がっています。
私事ですが、生まれて初めて劇場へ観に行ったミュージカルが劇団四季の「キャッツ」でした。そのときは、こんな夢のような世界があるのか〜と放心状態で感動したのを覚えています。初めてニューヨークに旅行した際にも、ブロードウェイで「キャッツ」を観ました。
自分がミュージカル好きになった原点とも言える「キャッツ」のリバイバル。周囲の評判がとても良いので、どんな感じの舞台になっているのか...期待を胸に劇場に向かいました。
1. 基本情報
作品名:CATS: The Jellicle Ball(キャッツ:ジェリクルボール)
作曲:Andrew Lloyd Webber
原作・作詞: T. S. Eliot
監督:Zhailon Levingston & Bill Rauch
劇場:Broadhurst Theatre (235 West 44th Street)
観劇日時:2026年5月13日 午後8:00〜10:30(休憩1回)
https://catsthejellicleball.com


ブロードハースト劇場は、約1,200席を収容する中規模のブロードウェイ劇場です。私は2023年にこの劇場で「A Beautiful Noise」というミュージカルを観て、ブログでも紹介しました。
劇場内ではファッションショーのようなランウェイが真ん中に設置され、それを三方向から客席が取り囲んでいました。ステージ近くにはテーブル席もありました。私が2025年に観た「キャバレー」の客席設定にも似ていました。
私の席は2階メザニンの前方端でしたが、舞台全体がとても見やすかったです。基本的にはどの席からもランウェイがよく見えるようになっているようでした。
2. あらすじ
(オリジナル版キャッツ)
満月の夜、ゴミ捨て場で開かれる年に一度の「ジェリクル舞踏会」。そこに集まった個性豊かな猫達の中から、長老猫が「最も純粋で特別な猫」を一匹だけ選ぶ。選ばれた猫は天上に昇り、新しい人生を与えられるという。
長老猫(オールドデュトロノミー)、MC猫(マンカストラップ)、ロックンロール猫(ラム・タム・タッガー)、劇場猫(ガス)、鉄道猫(スキンブルシャンクス)、泥棒猫(マキャヴィティ)、マジシャン猫(ミストフェリーズ)、老いた娼婦猫(グリザベラ)などが次々に登場し、自分の生き様を歌い踊って表現する。
(キャッツ:ジェリクルボール)
物語のベースはオリジナル版と同じだが、キャストが猫からクィア(LGBTQ+)パフォーマーに置き換わっている。
ハウスと呼ばれる共同体のパフォーマー達が、年に一度のイベント「ジェリクル・ボール」に集結し、頂点の栄誉を求めてファッションやダンスで自己表現のバトルを繰り広げる。
3. 感想
まず、本リバイバル公演の背景となるボールルーム・カルチャー(Ballroom Culture)について簡単に述べたいと思います。
ボールルーム・カルチャーは、1960~80年代にかけてニューヨークのハーレムを中心に発展した、黒人・ラテン系達のLGBTQ+コミュニティのサブカルチャーです。当時、多くのゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの人々が家族や社会からの拒絶を受ける中、自分達だけの居場所を作ろうとして生まれたコミュニティでした。
ボール(Ball)と呼ばれる競技会で、参加者はハウス(House)と呼ばれるチームに分かれ、歩き方、ダンス(ヴォーギング)、衣装など様々なカテゴリーで競い合います。ハウスは、家族に受け入れられなかった若者にとって心の拠り所となる共同体でした。ボール参加者のパフォーマンスに審査員が点数を付け、優勝者にはトロフィーなどが与えられました。ただし、ここで重要なのは勝敗ではなく、自分らしさを表現することでした。
様々な猫達の中から一匹が選ばれるという「キャッツ」のお話を、ボールルーム・カルチャーのコンテストに置き換えて再解釈されたのがこのリバイバルです。よくこんなアイデアを思い付いたなぁと感心します。
ボールルーム・カルチャーが発展してきた背景を知ると本公演に対する理解も深まりますし、現在の米政権下でLGBTQ+コミュニティが厳しい状況に置かれている今だからこそ、このリバイバルが大きな意味を持つようにも思われます。
音楽・ダンス
音楽は、基本的にアンドリュー・ロイド・ウェバーによるオリジナルの楽曲で構成されています。このミュージカルで最も有名な歌「メモリー」も当然歌われます。(その感想は後で↓)
ただし、最初からDJが登場し、オリジナルのサウンドにクラブミュージックやハウスミュージックの強いビートを融合して、ボールルームの雰囲気を演出するようにアレンジされていました。
クラシック要素のあるオリジナルの音楽と現代的なダンスミュージカルのビートが合わさってアンバランスにならないのか?と思いましたが、段々盛り上がっていくうちに気にならなくなりました。
そして、このリバイバル公演の最大の見どころは、キャスト達のダンスにあると思います。オリジナルがバレエやジャズダンス中心だったのに対し、本公演ではボールルーム・カルチャーを全面的に導入し、キャスト達は主にヴォーギング(Voguing)と呼ばれるダンスを披露していました。
ヴォーギングとは、手を高速でヒラヒラさせるような動き(分かるかな〜?)が特徴的なダンスです。ボールルームでのアンダーグラウンドなダンス形態でしたが、1990年にマドンナがリリースした大ヒット曲「Vogue」によって一躍世界的に有名になりました。
キャスト
会場は最初から最後までキャスト達のエネルギーに満ち溢れていました。彼らは舞台上だけでなく、客席の色々なところに現れて歌っていました、私の席の隣にも出てきてくれました!
衣装も踊りも個性的なパフォーマー達が次々に登場します。(ちなみに、猫という設定ではないので、猫の格好はしていません。)ボールルーム・カルチャーの背景を反映して、キャストの多くは黒人やラテン系の俳優達でした。
個人的には、ラム・タム・タッガー役を演じたSydney James Harcourtnの存在感と筋肉(笑)に特に惹かれました。
クライマックスで「メモリー」を歌うグリザベラ役を演じたのは”Tempress” Chasity Mooreというトランスジェンダーの女優でした。実際にニューヨークのボールルーム・シーンで長年活躍してきた方だそうです。グリザベラ役にブロードウェイの女優ではなく本物のボールルームのスターを配役したというのはとても興味深いです。
しかしながら、正直なところ、私は「メモリー」の歌唱に少しがっかりしました...。彼女の声が低く、歌のキーもオリジナルよりかなり低かったからです。あくまで一個人の感想ですが、私はクライマックスである「メモリー」の突き抜けるような高音の歌唱が舞台全体の出来を左右すると思って期待していたので、そこだけは引っ掛かってしまいました。
舞台演出
前述のとおり、会場中央にランウェイが設置されていて、そこでパフォーマー達がキャットウォーク、ダンス、ファッション等を競い合います。また、彼らは客席の至るところにも出没します。
観客も歓声を上げ、劇場で売っている扇子をバッと鳴らしたり(fan clacking)して、まさにキャストと観客が一体化したボール会場さながらでした。通常のミュージカル以上にライブ感がありました。
ボールルーム・カルチャーの背景について知っていると本公演をより深く楽しむことができると思いますが’、別に知らなかったとしても十分に楽しめる演出になっています。
まとめ
ド派手で楽しく、エネルギー爆発のステージでした。最近観た他のミュージカルと比べて、客層はかなり若かったように感じました。
オリジナルの「キャッツ」は「話が分かりにくい」「猫の格好が苦手(笑)」といった理由で苦手だった人も、このリバイバル公演は楽しんだという話を聞きました。もちろん、もとから「キャッツ」が大好きな人も、これまでに観た舞台と比べる意味で観てみると面白いと思います。
興味を持った方は是非観に行ってみてください。できれば、お友達と一緒に観に行く方が盛り上がって楽しいと思います。
現時点で、2027年1月17日まで公演が延長されたようです。6月7日に控えたトニー賞授賞式での賞の行方も楽しみですね。
