6月18日(土)、American Ballet Theater (ABT)によるバレエ「ドン・キホーテ」を観に行きました。公演場所はメトロポリタン・オペラハウス(メット)でした。
メットでは毎年9月下旬から翌年5月末〜6月頭あたりまでオペラが上演されるのですが、オペラシーズンが終わった後の夏の間は、ABTによるバレエ公演が行われています。(たたし、2020年、2021年夏はコロナのためにABTの公演はありませんでした。)
「ドン・キホーテ」は、数あるバレエの中で最も人気がある演目のひとつだと思います。17世紀に書かれた世界的に有名な同名小説を題材にしていますが、それとは別にしても、この名前を聞いたことない日本人はいないでしょう(笑)。スペインが舞台になっているため、スペインの舞踊を取り入れており、衣装も振付もとても華やかです。話はコメディ調で楽しく、親しみやすいバレエになっています。
私は、2018年にABTの「ドン・キホーテ」を初めて観たのですが、その際にダニール・シムキン(Daniil Simkin)というABTの男性プリンシパルダンサーの高くダイナミックなジャンプの連続に魅せられ、彼が出演するその他のバレエ公演も観に行ったりしました。
残念ながらダニールは2019年にABTを去ったのですが、今年の「ドン・キホーテ」公演に戻って来ることを知り、また観たい!と思って、彼が出演する回のチケットを取りました。今回劇場でもらった冊子(Playbill)には、ダニールは「ゲスト・アーティスト」と紹介されていました。
ところで、メットへの入場の際には、まだコロナワクチンの接種証明(ブースター接種含む)の提示が必要でした。既にブロードウェイの劇場では接種証明は必要ないのですが、この辺のルールは劇場によって違いがあるようです。特にメットの客層は高齢者が多いからでしょうか。
1. 基本情報
作品名:Don Quixote(ドン・キホーテ)
作曲: Ludwig Minkus(ルートヴィヒ・ミンクス)
振付:Marius Petipa and Alexander Gorsky(マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー)
観劇日時:2022年6月18日 午後8:00 〜 11:00(3幕、休憩1回含む)
バレエ団:American Ballet Theater
劇場:Metropolitan Opera House (30 Lincoln Center Plaza)
2. あらすじ
「ドン・キホーテ」という題だからドン・キホーテが主人公なんだろうと思いきや...、バレエという点でもストーリーの観点でも主役とは言えません(ドン・キホーテは踊りません)。若い娘キトリと青年バジリオが主役で、二人の恋愛を軸に話が進行します。
舞台はスペイン。ドン・キホーテが、物語の中に出てきたドゥルシネア姫を探しに、サンチョ・パンサを従えて旅に出るところから話が始まります。
第1幕
とある村の広場。宿屋の娘キトリは床屋の青年バジリオと恋仲だが、キトリの父ロレンゾは娘を貴族のガマシェに嫁がせようとしている。そこへドン・キホーテ達が現れ、キトリのことをドゥルシネア姫だと思い込んで騒ぐが、どさくさに紛れてキトリはバジルと共に村から逃げ出す。ロレンゾとガマシェ、ドン・キホーテ達も2人を追う。
第2幕
キトリとバジリオはロレンゾとガマシェに見つかってしまい、キトリは再びガマシェとの結婚を強要される。バジリオは自分の胸にナイフを刺すふりをして狂言自殺を図る。キトリは瀕死のバジリオとの結婚を父に懇願し、ドン・キホーテもロレンゾを説得する。ついにロレンゾが結婚を許すと、バジリオは跳ね起きる。(ドン・キホーテ達のことは割愛。)
第3幕
キトリとバジリオの結婚式が行われ、華やかな踊りが繰り広げられる。見届けたドン・キホーテとサンチョはまた旅立つ。
第3幕は短いですが、キトリとバジリオが踊る「パ・ド・ドゥ」での高度な技の応酬が最大の見せ場になっています。
3. 感想
音楽や振付にスペイン的な要素が取り入れられており、とても華やかで気持ちが盛り上がります。ダンサーの衣装や舞台のセットも目を見張るような鮮やかさでした。
バジリオ役のダニール・シムキンは、登場時から大きな拍手が起こり、期待に違わぬ素晴らしい踊りを見せてくれました。ピルエットに余裕があり、ジャンプも大きく高く、技を披露する度に大きな拍手や歓声がありました。技の決めポーズ(どや顔感)も見事でした。
キトリ役は、イザベラ・ボイルストン(Isabella Boylston)というバレリーナが演じていました。私が知らないだけで、イザベラも長くABTのプリンシパルをやっている有名なダンサーらしく、ダニールに負けず劣らずの素晴らしい高度な技を披露し、同じくらいの拍手・歓声を受けていました。
私は、バレエ「ドン・キホーテ」の音楽を聴くと、2018年の平昌オリンピックの女子フィギュアで金メダルを取ったロシアのザギトワ選手のフリー演技を思い出します。当時、フリープログラムの後半に跳んだジャンプには加点が付くルールだったため、ザギトワ選手は4分間の演技の最後2分間に全ジャンプを固め打ちするという戦略をとって物議を醸しました。皮肉も込めて「ジャンプの打ち上げ花火」みたいな言い方をされていました。
そのザギトワ選手のフリー演技では「ドン・キホーテ」の第3幕の音楽を使用していましたが、まさにこの第3幕は皮肉でも何でもなく、キトリとバジリオの技の打ち上げ花火のような豪華な締めくくりになります。
キトリとバジリオ以外の準主役もプリンシパルダンサーが演じていて、やはり素晴らしい踊りを見せてくれました。とても贅沢な時間を過ごしたように感じられました。
バレエに詳しくない人・初心者にもオススメできる演目だと思います!