H-1Bビザの申請手数料が大幅引き上げに!

2025年9月19日、トランプ大統領はアメリカの就労ビザの一つである「H-1B」ビザの新たな申請に10万ドル(現在の為替レートで約1,500万円)の手数料を課す大統領令に署名しました。

H-1Bビザ申請に10万ドル手数料、トランプ氏が制度見直しの大統領令(ブルームバーグ)


高度な専門職向けのH-1Bビザは、アメリカで外国人が就労する際に取得するビザの一つです。大昔のことですが、私はまさにこのH1-Bビザを取得してアメリカで働き始めた身ですので、申請のために高額な手数料が課されるというニュースに衝撃を受けました。


ここでは、H-1Bビザの申請における変更点(手数料引き上げ)の概要、本変更の背景や影響について整理したいと思います。

※ 本ブログの投稿時(2025年10月23日)以降に私が把握したルールを反映して、下記追記・修正しています。

※ なお、私は移民法の専門家ではありませんので、実際の手続きの詳細については専門の移民弁護士等にご確認ください。


H1-Bビザの概要

H1-Bというのは、高度な専門知識や技能を持つ外国人労働者を一時的に雇用するための就労ビザです。1990年(父ブッシュ大統領の時代)に創設されたビザプログラムだそうで、意外に歴史の浅いビザなのだなと思いました。

「高度な専門職」が対象となりますが、具体的には学士号(Bachelar)以上の学位が必要となっており、取得した学位と従事する職務内容に直接的な関連性があることが求められます。職種としてはIT、金融、医療、研究、教育などの幅広い分野で利用されています。

雇用主のアメリカ企業がH-1B申請者のスポンサーになる必要があります。申請にかかる手数料は、2025年9月時点(上記大統領令が適用される以前)で抽選登録料と請願書申請料を合わせて約1,000ドルだったそうですが(さらに雇用主は移民弁護士に弁護士費用を払います)、今回の大統領令によって10万ドルという高額の手数料が追加で必要になります。


H-1Bビザの年間(10月1日〜翌9月30日の会計年度)の発給数には上限があり、一般枠(学士号以上)が65,000件、修士号以上向けの特別枠が20,000件で、合計85,000件となっています。申請者数がこの上限を超えた場合、抽選プロセスによって当選者が決まります。

ちなみに、この抽選は2008年度(2007年10月〜)に初めて実施されたそうです。ちょうど私が大学院を卒業して仕事を始めた年でした。アメリカで仕事さえ見つかれば何とかなるだろうと思い、就労ビザの制度について十分な知識がなかった私は、抽選結果次第でビザが取れないかもしれないことを知って驚きました。確か2007年4月1日までに抽選登録を行い(手続きをしたのは会社と弁護士事務所ですが)、それから結果が出るまでは気が気でなかった記憶があります。抽選に受かったことを知ったのは大学院を卒業した5月頃でした。その後申請が承認され、2007年10月1日からH-1Bによる就労が可能になりました。


外国人留学生が学校卒業後もアメリカで働きたい場合、大抵の場合OPT(Optional Practical Training)というものを申請・取得します。OPTとは、学生ビザ(F-1ビザ)を持つ留学生が卒業後にアメリカの企業で最大1年間(分野によっては最大3年間)働くことができる制度で、H-1Bと同様に雇用主がスポンサーになります。まずOPTによってアメリカの企業に就職し、H-1Bビザを取得できたらH-1Bのステータスに切り替えるというのが留学生の一般的な就労手続きの流れです。

もしH-1Bの抽選で選ばれなかった場合、OPTが終了次第アメリカで就労できなくなるため、他のビザの取得を検討するか、アメリカを出国するか等、次の手を考えなくてはいけません。

ちなみに、私自身も大学院卒業時にOPTを申請し、就職してからOPTをH-1Bビザに切り替えました。


H-1Bは一時的な就労ビザなので有効期間があり、初回が3年、更に3年の延長が可能で、合計6年間になります。ただし、永住権申請中などの場合には6年を超える延長が認められることもあります。


申請料変更の概要

今回発表された大統領令「Restriction on Entry of Certain Nonimmigrant Workers」におけるH-1Bビザ制度変更の概要は以下のとおりです。

  • 2025年9月21日以降に提出される新規のH-1Bビザ申請には10万ドルの支払いを義務付ける。
  • この追加料金はこれまでの通常の申請料とは別に課される。また申請時に一回限りの支払いとなる。
  • 2025年9月21日以前に提出された請願や、現在既に有効なH-1Bビザの更新や延長には、この10万ドルの手数料は適用されない。 現在のH-1B 保有者の再入国にもこの追加料金は課されない。
  • 2024年10月29日追記)USCIS (米国移民局)が2025年10月20日に公表したガイダンスによると、他のビザ(F-1ビザやOPTなど)からH-1Bビザへのステータス変更の申請には10万ドルの追加料金が適用されないとのことです。


突然の発表から施行まで2日間しかなかったこともあり、企業やH-1B申請者の間で大きな混乱が生じました。また、大統領令には曖昧な点も多く、発表時にラトニック商務長官がこの追加料金を各年(annual)の負担と発言したため、既存のH-1Bビザ保持者や更新申請者、また国外滞在中の再入国者にも適用されるのではないかという不安が広がりました。

報道では、海外に一時滞在していたH-1Bビザ保持者が、9月21日までに急いでアメリカへ帰るような動きもあったとのことです。

大統領令発表の翌日、政府はこの追加費用は新規申請者に対して一回限りの支払いである(各年かかる費用ではない)ことを明確にしました。

とは言え、この変更が今後どのように運用されるかについて未だ不確実な部分があり、運用方針に関する詳細が出てくるまでH-1B保持者はアメリカからの出国を避けるべき、という移民弁護士のアドバイスもあります。
また、議会の承認なしに行政命令でこのように移民手数料を大幅に変更することが許されるのか、という法的な争点もあります。2025年10月16日、全米商工会議所はこの高額な追加費用を違法としてトランプ政権を提訴しました。

トランプ政権を米商工会議所が提訴、H-1Bビザ申請の高額手数料巡り(ブルームバーグ)


変更の背景

トランプ政権は発足以来不法移民の取り締まりを強化する一方、合法的な移民に対しても制限を課すような政策を進めています。今回のH-1Bの高額な追加手数料の導入もこの流れの中で理解することができます。


背景にあるのは、まず米国人の雇用保護です。トランプ政権は、H-1Bビザが米国人労働者の代替手段として低賃金の外国人労働者を雇うための道具になっていると批判しており、高額な追加手数料によって簡単に外国人労働者を使えないように企業側に圧力をかける狙いがあると見られています。


また、H-1Bビザの対象となる人材の選別、賃金基準の見直しといった背景もあります。この追加手数料によって企業は低賃金労働者を雇うことに抑制的になり、より高い賃金に見合う優秀な人材のみをH-1Bで雇用するようになる可能性があります。今回の大統領令では、労働省に対して 「H-1Bビザ申請者の賃金水準を高くするルール変更を行うこと」を指示しています。


近年H-1Bビザの応募数が増加し、抽選で当選する確率は非常に低くなっています。当選確率は情報ソースによって幅がありますが(H-1Bには一般枠と特別枠、特定国への割当枠等もあり、計算の仕方が異なるのか)、グーグルのAIによれば25%前後とのことでした。

また、H-1Bビザ取得者を国籍別に見ると、インド人が圧倒的に多く約70%を占め、次が中国人で約10%、残りがカナダ、メキシコ、韓国といった国の出身者になっています。そして、インド人取得者の多くがIT業界でプログラマーやソフトウェアエンジニア等として働いています。

現在の抽選制度では、主にインド系のITアウトソーシング企業が「数打ちゃ当たる」方式で多くのインド人労働者のH-1Bを申請しているため、他の企業は本当に必要とする人材を採用できない、という問題が以前から指摘されていました。今回の追加手数料がH-1Bの乱用を防ぐという期待もあります。



あと、トランプ政権が諸外国へ高い関税をかけようとしているのと同様に、高額なビザ申請費用によって金儲けしたいだけという見方の人もいるようです。

H-1Bの大統領令と同じ日、トランプ大統領は、外国人が100万ドル(現在の為替レートで約1億5000万円)を支払えば米国の永住権を獲得できる「トランプ・ゴールドカード」を設ける大統領令にも署名しました。

移民を抑制しようとする一方で、お金をたくさん払えば移住を認めてやるという拝金主義が垣間見えます。


変更による影響

今回の追加手数料の影響で、企業はH-1Bビザの申請に慎重になり、より高度な専門技能を持ち高賃金に見合う人材に対象を絞ってくるのではないかと予想されます。実際、企業の中には(ウォルマート等)H-1Bが必要な人材の採用を一時停止するといった影響も出てきています。

つまり、今後アメリカで働きたいと考えている外国人には全般的に厳しい状況になるでしょう。ただ、以前の私のようにF-1ビザ・OPTからH-1Bビザにステータス変更するような場合、この追加手数料は適用されないということが分かったので、留学生は少しホッとしたのではないかと思います。


これまで H-1Bビザを通じて多くの外国人材を採用してきたIT系の企業等は、今後事業モデルを維持できなくなる可能性があります。医療や教育など専門人材の確保が難しい分野では、外国人労働力に依存しているケースもあり、事業が困難になる懸念があります。

この措置がアメリカの人材競争力の低下を招き、ひいては経済成長への打撃、技術革新の停滞につながるのではないかと懸念する声もあります。



前述のとおり、今後の運用については未だ不確実な点もあり、実務上の混乱が予想されます。申請する側は、今後USCIS からの詳細なガイダンスを注意深くチェックすることが不可欠になります。

また、この追加手数料を違法として提訴が行われたことも先に述べたとおりで、今後法廷で是非が争われることになります。運用や法的な最終判断がどうなるかは流動的です。


その他のビザの状況

H-1Bビザの申請手数料の引き上げについて紹介しましたが、その他の就労系の非移民ビザ(E-1、E-2、L、Jなど)への影響も気になるところです。私が調べた限りでは、このブログ執筆時点で具体的な変更は決まってないようですが、全体として面接や審査が厳格化される傾向にあるようです。
また、この傾向は学生ビザ(F-1)や永住権の申請についても基本的に同様のようです。

現在既にアメリカに滞在している人や、これからアメリカで勉強したり働きたいと考えている人の中には、ビザの申請・取得の手続きについて知識がなかったり深く考えていない人も結構多い印象です。かく言う私も以前はそうでした...。しかし、自身のキャリアや経済状況に大きな影響を与える問題なので、今後各種ビザ制度の見直しや変更について注視していくと共に、必要に応じて専門家(移民弁護士、留学なら学校の担当者等)と緊密に連携していくことがこれまで以上に重要になると思います。