「Two Strangers (Carry a Cake Across New York)」は、イギリス発の新しいオリジナルミュージカルで、2024年4月にロンドン・ウェストエンドで初演されました。ニューヨーク・ブロードウェイでは、2025年11月から公演が始まっています。
ニューヨークを舞台に若い男女二人の触れ合いを描いた小規模なロマンティック・コメディ・ミュージカルです。ステージ上には本当に二人しか出てきません。
ニューヨークを舞台とする本作がイギリスで制作されたというのも興味深いです。
私が最近ここで紹介したミュージカル「ラグタイム」や「チェス」と比べるとまだ歴史も浅く、こぢんまりという表現が合いそうな作品ですが、果たしてどんなもんかと思いながら観劇しました。
1. 基本情報
作品名:Two Strangers (Carry a Cake Across New York)
作詞:Kit Buchan
作曲:Jim Barne
脚本:Kit Buchan
監督:Tim Jackson
劇場:Longacre Theatre (220 West 48th Street)
観劇日時:2026年3月4日 午後2:00〜(休憩1回)


Longacre (ロング・エーカー)劇場は、約1080席を収容する中規模の劇場です。過去にはミュージカルだけでなくプレイ(台詞劇)の公演も多く行われているようです。
2. あらすじ
(※ネタバレあり)
前半
イギリス人青年 Dougal(ドゥーガル) は、一度も会ったことのない父親の結婚(再婚)式に出席するためニューヨークへやって来る。JFK空港で新婦の妹Robin(ロビン)が彼を迎える。初めてのニューヨークで興奮するドゥーガルとは対照的に、ロビンは日々の仕事や姉の式の準備で疲れている。
二人はブルックリンでウェディングケーキを受け取り、ロビンの姉のアパートまで一緒に運ぶ。ニューヨークを移動しながら、二人は家族や恋愛について語り合いながら徐々に打ち解けていく。
ドゥーガルはニューヨークに2泊しか滞在できない。二人はロビンが預かっていたドゥーガルの父のクレジットカードを使って贅沢な一夜を過ごす。
後半
夜が明けて結婚式当日の朝。式に出かけるドゥーガルに対し、ロビンは止めようとする。口論の中でドゥーガルの父の素性が明らかになる。ドゥーガルに式の招待状を送ったのは父ではなく、彼に秘密の子がいることを知ったロビンの姉だった。また、父は浮気をしていてその相手がロビンだったことも仄めかされる。
ドゥーガルは式の会場に到着するが、結局出席せずに立ち去る。ロビンはアパートに戻った後、小さなチャイニーズレストランで一人ディナーを食べる。そこにドゥーガルがやって来て、二人は仲直りする。
ドゥーガルは深夜便でニューヨークを発ち、二人はそれぞれの人生の新しい一歩を踏み出す。
3. 感想など
音楽
本ミュージカルで歌われる楽曲は、基本的に軽快な現代的ポップテイストです。「Dear Evan Hansen」などの系統に近いと言えます。二人の会話が自然と歌になっていくような流れでテンポよく進んでいきます。
主なナンバーとしては、ドゥーガルがニューヨークに到着して最初に歌う「New York」がとても印象的です。映画で観た憧れの街にやって来た彼のワクワク感が伝わって来ます。私も、自分が初めてニューヨークを訪れた時の興奮を思い出しました。
二人がドゥーガルの父のカードで豪遊する場面で歌われる「American Express」は、本作中で一番楽しくキラキラした感じの歌です。アップテンポなリズムに乗って、二人のダンスシーンも少しだけあります。それにしても、二人とも他人(ドゥーガルの父とは言え)のカードを使って豪遊するような若者には見えませんでした...。
別れる際の歌「If I Believed」では、短い出会いが二人の人生を変える可能性が歌われ、ロビンの心境の変化や、今後の人生に対する希望を感じさせてくれます。
キャスト
最初に述べた通り、舞台の登場人物はドゥーガルとロビンの二人だけです。
ドゥーガル役は、ウェストエンドに続き、ブロードウェイでもSam Tuttyが務めています。彼の演技の評判は事前に聞いていましたが、ナイーブで純粋で感情豊かな彼のキャラクターをコミカルに演じていて、まさにハマり役だと感じました。Sam Tuttyは、ウエストエンド版 「Dear Evan Hansen」 でローレンス・オリヴィエ賞(ブロードウェイのトニー賞に相当)を受賞したそうですが、彼の雰囲気や歌い方は確かにエヴァンを彷彿とさせました。
上記のとおり、本作の音楽は「Dear Evan Hansen」と近いものがあり、同じ俳優が両作品の主演を務めるのも納得です。(私のブログでも以前に「Dear Evan Hansen」を紹介しています。)
ロビン役は通常Christiani Pittsが務めていますが、私が観たマチネ公演では代役のJana Larell Gloverが出演していました。二人しかいない登場人物の代役をやるのは大変だと想像しますが、Janaさんはよく演じていたと思います。
ただ、本作に関しては、キャラクター的にドゥーガル役の方が圧倒的に重要だと感じました。
ストーリー展開
たった二人の語り合いで進行する小さな世界のミュージカルですが、その分二人の背景や感情がよく分かり、観ていて親近感が湧きます。同じく数人の出演者によるミュージカル「Maybe Happy Ending」に近いものを感じました。こういった作品はブロードウェイ外で作られて広まっていく傾向があるのかもしれません。
ロビンは家族関係に問題を抱えていて幸せそうではないのですが、ドゥーガルのユーモアのおかげで少しづつ心を開いていきます。このドゥーガルの面白い言動が肝になっていて(ロビンを「叔母さん」と呼んだり)、所々で観客の大きな笑いを誘っていました。
本筋とはあまり関係なのですが、Dating App(出会い系アプリ)を使ってロビンのデート相手を探そうとする場面があり、アプリ上の男性プロフィールを次々にスワイプするところ、それに対するロビンの冷めた態度など、今っぽい感じで印象に残りました。
また、最終盤のシーンで、チャイニーズレストランでもらったロビンのフォーチュンクッキーに「This time next year, you’ll be happy.」と書いてあるところは、ロビンの未来に対する希望を感じさせてくれて、二人のこれからの幸せを願わずにはいられない気持ちになりました。
舞台演出
冒頭がJFK空港への到着のシーンで、ステージの真ん中にスーツケースが山積みになっていたのですが、セットは最初から最後まで変わりませんでした。スーツケースの山がそのまま地下鉄、ホテル、レストランなどのシーンで使われ、照明によって場所の変化を表現するような演出でした。
至ってシンプルな演出でしたが、それがキャスト二人の会話や歌唱に一層フォーカスを当てる効果を上げていたように思います。
このブログで以前に紹介した「いかにもブロードウェイ的」なミュージカル作品と比べると、圧倒的に制作費が安く上がるだろうな...と考えました。近年の物価高騰が影響しているのかもしれません。
まとめ
もし、これぞブロードウェイ・ミュージカル!という豪華なショーを観たいのであれば、正直お勧めしません。ただし、派手さはなくても「チャーミング」で、心がどこかほっこりするようなミュージカルです。特に、若い世代の人達の心に刺さるのではないかなと思いました。
また、会話劇に近いところがあるので、観光で来ている方などで英語があまり得意でない場合は、あらすじをしっかり予習しておく方が良いと思います。
