ミュージカル「Ragtime(ラグタイム)」鑑賞


ミュージカル「ラグタイム」は、1975年に発表された同名小説をベースに制作され、まず1996年にカナダのトロントで初演、1998年にニューヨーク・ブロードウェイで初演されました。批評家からの評価は高く、当時のトニー賞を複数受賞し、以降も世界各地で公演が行われているようです。

ブロードウェイでも2025年10月より本作のリバイバル公演が始まりました。当初は2026年1月までの短期公演の予定だったそうですが、2026年6月まで延長されることが発表されました。


そもそもラグタイムとは、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで流行した音楽ジャンルのことで、黒人音楽の影響を受けており、シンコペーション(リズムのずれ)を多用したメロディーが特徴とのことです。

このミュージカルも20世紀初頭のアメリカが舞台になっていて、人種差別に苦しむ黒人や厳しい生活を生き抜く移民の姿を通じてアメリカン・ドリームの光と影を描く作品となっています。


今回のリバイバル公演が始まる前、2024年にニューヨーク・シティ・センターという劇場で本作のオフ・ブロードウェイ公演が短期間行われていました。私は何となく興味を持ちながら結局観に行かなかったこともあり、今回のリバイバル公演は是非観てみたいと思っていました。


1. 基本情報

作品名:Ragtime(ラグタイム)
作詞:Lynn Ahrens
作曲:Stephen Flaherty
脚本Terrence McNally
監督:Lear deBessonet

劇場:Vivian Beaumont Theater (150 West 65th Street, New York, NY)
観劇日時:2025年12月18日 午後7:00〜9:50(休憩1回)

https://www.lct.org/shows/ragtime/

ヴィヴィアン・ボーモント劇場は、リンカーン・センターと呼ばれる総合芸術エリアにある劇場のひとつです。リンカーン・センター内には、代表的な施設としてニューヨーク交響楽団の本拠地であるデイヴィッド・ゲフィン・ホール、メトロポリタン・オペラハウス、ニューヨーク・シティ・バレエの本拠地デイヴィッド・H・コーク劇場などがあります。

このヴィヴィアン・ボーモント劇場では、ミュージカルや演劇の公演が行われていますが、過去の演目には「王様と私」「マイ・フェア・レディ」「南太平洋」などがあり、伝統的・古典的なミュージカルの公演が多いようです。

劇場は1965年にオープンしたそうですが、以降改築されていて、歴史ある他のブロードウェイ劇場と比べるとかなり新しく見えます。

また、1,080席を収容するとのことですが、同じような規模の他の劇場よりも広く見え、座席や通路に余裕を感じました。ステージが半円形状に張り出していて、それを取り囲むように座席が配置され、後方へ向かって傾斜になっているので、どこからでもステージが見やすくなっています。

心地よく観劇を楽しめる素晴らしい劇場だなと私は感じました。


2. あらすじ

舞台は20世紀初頭のニューヨーク。人種の異なる3つの家族を軸に物語は展開する。

  • 裕福な白人家庭(母・父・息子)
  • 黒人のコールハウス、恋人のサラ、息子
  • 貧しいユダヤ系移民のタテと娘

前半

黒人ピアニストのコールハウスに愛想を尽かした恋人サラは、二人の間に生まれた赤ん坊をある家の庭に置き去りにする。その白人家庭の心優しい母マザーは、夫ファーザーが不在の中、赤ん坊とサラを迎え入れる。

コールハウスはサラが身を寄せるマザーの家に通い、関係を修復しようとする。彼はピアニストとして成功し、新車のT型フォードを買うが、差別的な白人達に新車を破壊される。警察は黒人である彼の訴えを聞き入れず、理不尽な扱いが続く。抗議の訴えの最中、サラは誤って警官に殺される。この悲劇をきっかけに、コールハウスは尊厳を回復するため暴力による抵抗を選ぶ。

一方、東欧から渡米して来たユダヤ系移民のタテとその娘は極貧生活を強いられるが、タテは切り絵を作って生計を立てようとする。

後半

コールハウスは黒人の仲間達とともに武装蜂起し、JPモルガン図書館を占拠する事件を起こす。最終的に彼は条件付き降伏を選ぶが、約束は破られ射殺される。

白人家庭では、旧来の価値観に縛られるファーザーが黒人の子供の受け入れに反対し、マザーとの夫婦関係は破綻する。

タテは、自分の絵を動かすという発想から新興の映画業界に足を踏み入れ、映画監督として成功する。

マザーはタテと出会い、価値観を共有して親交を深める。やがて、マザーはファーザーと別れタテと一緒に新たな人生を歩み始める。そこには、マザーと息子、タテと娘、そしてコールハウスという幼い子の姿があった。


3. 感想など

何よりキャスト達の歌唱の素晴らしさに圧倒されました。

特に、コールハウス役のJoshua Henryが圧巻でした。後半で抗議の声を上げる決意を歌う「Make Them Hear You」では、心の底から湧き上がる彼の怒りや悲しみがダイレクトに伝わってきて、聴きながら自然と涙が溢れました。

サラ役のNichelle Lewisの歌声も力強く、「Your Daddy’s Son」という歌が印象的でした。また、前半の「Wheels of a Dream」という歌では、コールハウスとサラの2人が一緒に未来への希望を力強く歌い上げていましたが、それだけにその後彼らを襲う悲劇との落差が際立ちました。

マザー役のCaissie Levyは様々なミュージカルで主演級を演じた実績を持つ女優ですが、歌声に格調があって裕福な女性の役柄によく合っていたと思います。終盤でマザーが歌う「Back to Before」は印象に残る美しい名曲でした。(どこかで聞いたことがある気がしたのですが、以前私がコーラスで歌ったことがあるのを思い出しました。)

ラグタイムという音楽にも迫力を感じました。ラグタイムの特徴はシンコペーションということで、鑑賞前はジャズっぽいノリの音楽を想像していたのですが、大人数の合唱やオーケストラの演奏のせいもあり、クラシックのような響きが強い印象を持ちました。

調べてみると、ジャズが即興演奏やスウィングのリズムを特徴とするのに対し、ラグタイムは基本的に楽譜通りの演奏で規則正しいリズムといった音楽的違いがあるようです。ただ、ラグタイムがジャズの源流になったとみなされているそうで、音楽ジャンルの発展について知る良い機会となりました。


あらすじを読んでわかるとおり、本作は悲劇的な展開が含まれる重いお話です。以前本ブログで紹介した「Parade」と同様に、アメリカ社会の影の部分を描く社会派ミュージカルと言えます。最後に未来への静かな希望が描かれて幕が下りますが、観終わって何とも言えぬ感情が残りました。

さらに、テーマとなる人種差別、階級格差、移民の問題は、本作の時代設定から100年以上が経っても未だに残っていて、むしろ現代のアメリカでクローズアップされています。これらの問題の根深さを痛感させられますが、そんな今だからこそ我々に必要とされる作品なのではないかと思いました。

黒人、白人、ユダヤ系移民の3者それぞれの話が並行して始まり、徐々に交わっていくという興味深い構成になっています。その分公演時間も(休憩1回を入れて)約3時間と長く、全体として話が散漫になったような感じもありましたが、一方でその構成が物語の背景に厚みを与えているとも思いました。

できれば事前にあらすじを予習しておくことをお勧めします。


舞台演出という点では比較的シンプルだと感じましたが、白人の登場人物は白をベースにした煌びやかな衣装を着ている一方、黒人や移民達の衣装は黒や茶系のくすんだ色になっていて、それぞれの境遇を対照的に表していました。



冒頭にも書いたとおり、「ラグタイム」の公演は好評につき2026年6月14日まで延長されるとのことです。

単に楽しい舞台が観たいというより、テーマについて深く考えさせられるミュージカルに興味がある方にお勧めできる作品です。また、迫力のある音楽・歌声を堪能することができると思います。