オペラ「トスカ」鑑賞


2022年最初の舞台観劇として、メトロポリタン・オペラへ「トスカ」を観に行きました。


Wikipediaでは「見せ場の多いオペラ」と紹介されていますが、確かにストーリーの展開も音楽もとてもドラマチックです。

トスカの役は、あの伝説的ソプラノ歌手マリア・カラスの十八番だったと言われています。意外なことに、マリア・カラスがオペラの舞台で実際に歌っている映像はほとんど残っていないのですが(もちろん録音はたくさん残っています)、唯一残っているのがトスカの第2幕の映像だそうです。


1. 基本情報

  • 作品名:Tosca(トスカ)
  • 作曲:Giacomo Puccini(ジャコモ・プッチーニ)
  • 演出:David McVicar
  • 観劇日時:2022年1月8日 午後8:00 〜 11:00(3幕、30分休憩2回含む)
  • 劇場:Metropolitan Opera (30 Lincoln Center Plaza)



2. あらすじ

舞台はナポレオン戦争時の1800年、ローマ。主な登場人物は、女性歌手のトスカ、画家のカヴァラドッシ、ローマ市警視総監のスカルピアの3人で、三角関係が繰り広げられます。

第1幕

脱獄した政治犯のアンジェロッティが教会に逃げ込む。そこで絵を描いていたカヴァラドッシはアンジェロッティに気付き、逃亡を手助けしようとする。

カヴァラドッシの恋人トスカが教会に現れる(アンジェロッティは隠れる)。嫉妬深いトスカは他の女の影を怪しむが、その夜に2人で会う約束をして去る。

アンジェロッティの脱獄を知らせる大砲が鳴り、彼とカヴァラドッシは教会を急いで出る。アンジェロッティを追う警視総監のスカルピアが教会にやって来る。(スカルピアはトスカを手に入れたいと願っている。)


第2幕

宮殿のスカルピアの部屋。捕まったカヴァラドッシが連れて来られ、アンジェロッティの居場所を白状するよう拷問される。

そこにトスカも呼ばれ、拷問の苦痛にうめく恋人の声を聞く。トスカはスカルピアにカヴァラドッシの助命を嘆願するが、その代償としてスカルピアから体を要求される。トスカは絶望しして神に祈る。(「歌に生き、愛に生き」を歌う。)

トスカは要求を受け入れ、スカルピアは部下にカヴァラドッシを見せかけの銃殺刑(空砲で殺さない)に処するよう命じる。

そして、迫ってくるスカルピアをトスカはナイフで刺し殺す。


第3幕

サンタンジェロ城の処刑場。処刑を待つカヴァラドッシはトスカを思い絶望する。(「星は光りぬ」を歌う。)そこにトスカが訪ねて来て、見せかけの処刑が行われることを告げ、撃たれたら倒れるように頼む。

やがて、カヴァラドッシが処刑場に連行され、兵士達の発砲を受けて倒れる。トスカはカヴァラドッシの側に駆け寄るが、彼は実際に銃殺されて死んでいた。トスカは泣き叫ぶ。

スカルピア殺害の罪で、兵士達がトスカを捕まえに来る。トスカは城の屋上から身を投げる。


3. 感想

メット・オペラの豪華な舞台はいつも楽しみの一つなのですが、この「トスカ」でも幕毎に荘厳で見事なセットでした。ただ、舞台の床が向かって右から左へ坂のように若干傾いている造りになっていて、もしあの床がツルツルだったら演者がスル〜っと滑ってしまうのでは?と心配になりました。そうすることで舞台に奥行きが出るような効果でもあるのか...


数年前に最初に「トスカ」を観たとき、値段の安いPartial View (見切れ)の席だったのですが、なんと肝心の第2幕の「歌に生き、愛に生き」のシーンで、自分の席から死角になる舞台端っこでトスカが歌い始め、終わるまで動かなかったので、全くトスカの歌う表情を見ることができませんでした...。それが心残りで、今度はちゃんと舞台を見渡せるようオーケストラ席を買いました。

今回も舞台演出は変わっていなかったようで、トスカは舞台向かって左端で「歌に生き、愛に生き」を歌いました。もしメット・オペラで近々「トスカ」を観る機会があるようでしたら、席には気をつけて下さい。


トスカ役のソプラノ歌手、Elena Stikhinaは素晴らしかったです。「歌に生き、愛に生き」では、緊張感の中静かに歌い始め、少しづつやるせない感情が溢れ出すように歌っていて見事でした。マリア・カラスの歌い方に聞き慣れていると、迫力が足りないように感じるかもしれませんが、全体の流れの中で、とても説得力のある歌唱だったように思いました。

カヴァラドッシ役のテナーJoseph Callejaも良かったです。登場時に一際大きな拍手をもらっていて、かなり有名な歌手だと思います。第3幕でカヴァラドッシが歌う有名な歌「星は光りぬ」は、このオペラの悲劇性を象徴するようでした。この歌のメロディはオーケストラのみでも演奏される箇所があり、とてもドラマチックで耳に残る旋律です。


ところで、「トスカ」の曲はフィギュアスケートでもよく使用されてきました。様々な有名スケーターが使ってきましたが、私は特にアメリカの女子シングルスケーター、ミシュル・クワンの滑ったトスカがとても印象に残っています。ミシュルはミスが非常に少ないスケーターでしたが、ジャンプを綺麗に決めた後、トスカのドラマチックな調べに乗せて最後のステップからフィナーレに向かうところが鳥肌ものだったことを思い出します。


警視総監のスカルピアが徹底的に嫌な奴で、話の筋がちょっと理不尽じゃない!?と思わない訳ではないですが、オペラですから細かいことは言わず、純粋に素晴らしい音楽を楽しめばいいと思います。

同じプッチーニ作のオペラでも、先日観た「ラ・ボエーム」とはかなり違う趣ですが(「トスカ」の方がもっと激情的)、どちらも長い間支持されているオペラだけあってそれぞれ素晴らしかったです。