2024年のオペラ鑑賞第一弾として、メトロポリタン・オペラ(メット)による「カルメン」を観に行きました。
オペラに詳しくない人でも、オペラ「カルメン」の前奏曲や有名な歌をきっとどこかで聞いたことがあるはずだと思います。また、「カルメン」という女性の名前を聞けば、真っ赤なドレスを着た情熱的な女性のイメージを連想するのではないかと思います。
今シーズンからメットの「カルメン」は新しいプロダクションになるとのことで、どんな感じか楽しみにしていました。が、かなり現代風に演出されることが分かり、車に乗って挑発的に睨むカルメンの宣伝写真を見て、少し心配になりました...
1. 基本情報
- 作品名:Carmen(カルメン)
- 作曲: Georges Bizet(ジョルジュ・ビゼー)
- 演出:Carrie Cracknell
- 指揮:Daniele Rustioni
- 観劇日時:2024年1月27日 午後1:00 〜 4:40(4幕、休憩1回)
- 劇場:Metropolitan Opera (30 Lincoln Center Plaza)
2. あらすじ
オリジナルの「カルメン」の舞台は19世紀のスペイン、セビリア。
第1幕
タバコ工場で働く女工のカルメンは男達に人気がある。衛兵のドン・ホセだけは彼女に興味を示さないが、カルメンは彼の気を引こうとする。カルメンは他の女工と喧嘩騒ぎを起こして捕えられるが、衛兵ホセを誘惑して手縄をゆるめさせ、逃げ去る。
第2幕
カルメンが酒場で仲間と歌い踊っているところに、闘牛士のエスカミーリョが現れ、カルメンに一目惚れする。カルメンを逃がした罪で牢に入っていたホセは釈放され、カルメンに会いに酒場へ行く。カルメンはホセにジプシーの密輸団の仲間になるように誘う。ホセは軍を脱走し、ジプシー達の仲間に入る。
第3幕
密輸団にいるホセのもとに婚約者のミカエラが訪ねてきて、故郷のホセの母が重病だと伝える。ホセはカルメンのことを思いつつも、母のもとへ帰る。移り気なカルメンの心は彼から離れ、再会したエスカミーリョに移る。
第4幕
闘牛の当日、闘牛場前の広場でカルメンとエスカミーリョは愛の言葉を交わす。その後、カルメンの前にホセが現れて復縁を迫る。カルメンは彼を相手にせず、以前もらった指輪を投げ捨てる。ホセは激昂してカルメンを刺し殺す。
ただし、今回のメットの演出では、舞台は現在のアメリカ南部。カルメンと仲間の密輸団は大きなトラックで旅していて、エスカミーリョは闘牛士でなくロデオのスター!になっていました。あらすじ自体は概ね同じでした。
3. 感想
珠玉の音楽
最初に書いたとおり、オペラ「カルメン」はよく知られた音楽で溢れています。最初の前奏曲を聞いたことない人は多分いないんじゃないかと思いますが、オペラが始まる興奮を一気に掻き立ててくれます。ちなみに、私が小学生の頃、運動会のかけっこのときにこの曲がBGMとして使われていました(笑)。
その他、第1幕でカルメンが歌う「ハバネラ(恋は野の鳥)」、第2幕でエスカミーリョが歌う「闘牛士の歌」もかなり有名です。
「ハバネラ」は、男心を翻弄するカルメンが「私があなたを好きになったら用心しなさいよ!」と歌うアリアです。伝説のソプラノ歌手マリア・カラスの十八番のひとつであり、私もマリア・カラスによる録音を何度も聴いているため、別の歌手の「ハバネラ」を物足りなく感じることが多いのですが、今回の歌手(Aigul Akhmetshina)は迫力があって良かったと思いました。それにしてもカルメンは自分勝手な女で、見ていてついムカついてしまうのですが、男はそういうところに惹かれるのでしょうかね...
「闘牛士の歌」は、前奏からスペイン感が満載で気持ちが上がります。エスカミーリョが低音を響かせて、闘牛士の闘争本能や男らしさを歌い上げます。今回の演出では闘牛士でなくロデオスターでしたが、エスカミーリョ役のバリトン歌手(Kyle Ketelsen)の声はとても魅力的でした。カルメンが最終的にエスカミーリョに惹かれるのも納得してしまいます。
上記の曲と比べると知名度は落ちるでしょうが、その他にも印象的な曲がいくつかあります。
第2幕の最初にカルメンが歌う「ジプシーの歌」は情熱的で、個人的にも大好きです。以前私が見た演出では、これを歌うカルメンの後ろでフラメンコダンサー達が踊っていて、音楽にすごくはまっていたを覚えています。ちなみに今回の演出では、大きなトラックの荷台でカルメンと女友達が今どきのノリで踊りまくっていました...
第3幕で歌われるミカエラのアリアも印象的です。ミカエラは助演級のキャストではありますが、ホセを一途に想いながら自分の決意を美しく歌い上げます。情熱的で奔放なカルメンとの対比で、ミカエラの心優しさが引き立ちます。
また、第4幕への間奏曲「アラゴネーズ」もスペインらしい情熱に溢れた曲で、これから始まる闘牛場のシーンに向けて興奮を高めてくれます。
とにかく有名な名曲の宝庫であることから、オペラ初心者に最初にお勧めする演目となると、私はやはり「カルメン」を選びます。(異論もあると思いますが。)
「カルメン」はフランスの作曲家ビゼーによって作られましたが、なんとビゼーは「カルメン」の初演からわずか3ヶ月後、36歳の若さで亡くなったとのこと。カルメンが大ヒットする前だったようです。長生きしていたら、もっと多くの傑作を残していたかもしれないと思うと残念です。
新しい演出
19世紀のスペインから現在のアメリカに舞台を移した今回のメットの演出。きっと賛否両論があったと思います。
毎シーズン、「カルメン」などの人気のオペラ演目は繰り返し上演されるので、同じ演出で偉大なるマンネリを続けるか、新しい演出を試みるかは、なかなか難しい問題でしょうし、今回のはかなり勇気のいる挑戦だったのではないかと想像しました。
私自身は、一回くらいならこれでもアリかな...という感想を持ちました。カルメンや仲間達を乗せる大きなトラックがステージ上でグルッと回転するのは迫力があったし、何かとチカチカする舞台照明は現代的な雰囲気を醸し出していました。とは言え、音楽自体がこれぞスペイン!というものなので、やっぱり次はスペインを舞台にした演出で観たいです。エスカミーリョもやっぱり闘牛士であってほしいです。
自分の買った席
今回、私はステージに向かって右側のバルコニーの見切れ(Partial View)席で鑑賞しました。私はよくバルコニーのサイドの見切れ席を買うのですが、値段が安いからという理由以外にも、(多少見切れても)ステージに比較的近いので音がよく聞こえる、自分の前に席がないので前の人の頭が気にならない、といった利点があります。
しかし、今回の演出ではカルメン達がステージに向かって右寄りの方で歌うことが多かったので、私の席からは歌っているところが死角に入って全く見えない!ときがありました(涙)。ただし、歌い手が死角に入っているときは私の席に近い方で歌っているので、声自体はよく聞こえたのですが。
逆のパターンで、以前「トスカ」を鑑賞した際、ブログにも書いたのですが、ステージに向かって左寄りの方で代表的な歌が歌われ、左側の見切れ席に座っていた私から全然見えなかったということがありました。ですので、どっち側の席が良いかは一度観てみないと分かりません。
この新しい演出による「カルメン」は、2024年4月下旬〜5月にまたメットで上演されます。ご興味があれば、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。