2024年10月からミュージカル「Sunset Blvd.」 のブロードウェイ公演が始まりました。
1950年の映画「サンセット大通り」をミュージカル化したものです。映画はビリー・ワイルダー監督、グロリア・スワンソン、ウィリアム・ホールデン主演で制作され、ハリウッド映画の歴史を代表する名作のひとつとみなされています。
アンドリュー・ロイド・ウェバーの音楽によるミュージカル版は、1993年にロンドンのウェストエンドで初演が行われ、翌年にニューヨークのブロードウェイでも初演されました。現在行われている公演は2回目のリバイバルです。
私は子供の頃からクラシック映画が好きで、「サンセット大通り」も何度も見ていますが、そのミュージカル版がある(それもアンドリュー・ロイド・ウェバー作)こと自体、本公演が始まるまで恥ずかしながら知りませんでした…。
ブロードウェイミュージカルに詳しい知人は、1994年の本作のブロードウェイ初演を観たとのことで、主演のグレン・クロースや豪華な舞台演出が素晴らしかったそうですが、対して今回のリバイバル公演はシンプルな舞台とミニマリズムな演出で少し残念だった、と言っていました。
一方でポジティブな感想も聞いていたので、あの映画がどんな風にミュージカル化されているのか、楽しみに鑑賞しました。
1. 基本情報
作品名:Sunset Blvd.
作曲:Andrew Lloyd Webber
作詞・脚本:Don Black and Christopher Hampton
監督:Jamie Lloyd
劇場:St. James Theatre (246 W 46th Street, New York, NY)
観劇日時:2025年3月8日 午後2:00〜4:30
https://sunsetblvdbroadway.com
セント・ジェームズ劇場は歴史がある古い劇場で、内装も重厚感があります。ブロードウェイ劇場街の中では比較的大き目で約1700席あり、オーケストラ席、メザニン席、バルコニー席の3層になっています。


2. あらすじ
前半
舞台は1949年のハリウッド。売れない脚本家のジョーは、サンセット大通りにある豪邸に迷い込む。そこには、かつてサイレント映画時代にスター女優だったノーマ・デズモンドが執事のマックスと一緒に暮らしていた。映画界への復活を望むノーマはジョーに復帰作「サロメ」の脚本の手直しを依頼し、ジョーも仕事を引き受けて邸宅に住み込む。
やがてノーマはジョーに惚れ込み、ジョーはノーマの精神状態が不安定であることに気付く。
後半
ノーマは映画の撮影所を訪れて旧知の監督と会うが、彼女はもう映画界に必要とされていない。しかし、執事のマックスはその現実をノーマから隠し続け、ノーマは今も自分がスターだと思い込んでいる。マックスは実はノーマの最初の夫だった。
ジョーは脚本編集者のベティと脚本を共作する中で恋愛関係になるが、それを知ったノーマは嫉妬と怒りに狂う。ジョーはノーマから逃れる決心をするが、ノーマはジョーを撃ち殺してしまう。邸宅に押しかけてきた警察や記者、カメラマン達を見て、ノーマは映画の撮影だと思い込み、カメラに向かって「サロメ」を演じ始める。
3. 感想など
基本的には映画と同じストーリーラインでしたが、最初に書いたとおり、やはりミニマリズムな舞台演出が印象的でした。ステージ上は大道具・小道具がほぼなくガラーンとしていて、出演者の衣装は黒ベースのシンプルなものでした。最近ミュージカル、オペラ等でそういう演出が多いように感じますが、やはり予算節約のためなのでしょうか。
一方、主要キャストの歌う様子が別のキャストにより手持ちカメラで撮影され、それが後方の大きなスクリーンに映し出されるという演出で、観客は演者達の顔の表情を鮮明に見ることができました。まさに舞台と映画を融合させたような感じで、観客の目を引きつける効果的な演出だと思いました。
音楽はさすがアンドリュー・ロイド・ウェバーらしく、壮大で格調高いものでした。キャスト達の歌唱もまた素晴らしかったです。
何と言っても、主役ノーマ・デズモンドを演じたニコル・シャージンガーの演技と歌唱が圧巻でした。このニコルがかつてガールズグループPussycat Dollsのリードボーカルだったことを本公演で知りました。Pussycat Dollsと言えば、ちょうど私が渡米した2005年頃に大人気で、「Dont’t Cha」「Stickwithu」等のヒット曲がよく流れていたことを私も覚えています。女性の性的アピールを強調したようなグループだったと思いますが、そのボーカルが約20年を経てブロードウェイの舞台の主演をやっているとは、隔世の感があります...。
ちなみに、ニコルは今46歳だそうですが、お顔もスタイルも十分に美しくて、「かつてスターだった老女優」というには少々若すぎる気もしました。(映画でのグロリア・スワンソンの印象が強すぎるせいもありますが。)
脚本家のジョー役を演じたトム・フランシスも良かったです。今まだ25歳だそうで、今後がますます楽しみな俳優さんです。
後半の冒頭では、舞台裏の楽屋にいる(トム演じる)ジョーがタイトル曲「Sunset Blvd.」を歌いながら劇場を飛び出し、キャスト数人を引き連れてブロードウェイを練り歩く様子がバックスクリーンに映し出されました。そして曲の最後にステージ上に戻ってくるという面白い演出で、観客も盛り上がりました。
ちなみに、このリバイバル公演は2023年にロンドンで始まったのですが、ニコルとトムはロンドンでも主演していて、二人揃ってイギリスのローレンス・オリヴィエ賞(アメリカのトニー賞に相当)で最優秀主演男優・女優賞を受賞しています。今年のトニー賞ではどうなるでしょうか?
そもそものテーマが重めなので、鑑賞後にスッキリするような類のミュージカルではないですが、主役二人の異様な関係が織りなす怪しい雰囲気が独特の演出で表現されていると思いました。ラストシーンも衝撃的でした。
本公演は2025年7月13日で終了予定とのこと。興味のある方はお早めに!
