「The Outsiders」は、2024年にニューヨーク・ブロードウェイで初演された比較的新しいミュージカルです。
原作は1967年にS・E・ヒントンにより発表された同名の小説で、1983年にはフランシス・コッポラ監督により映画化されています。映画には若き日の無名のトム・クルーズをはじめ当時の若手俳優が多数出演しており、80年代を代表する青春映画と言われているので、ご存じの方も多いかと思います。
ミュージカル版は、まず2023年にサンディエゴでプレミア公演が行われた後、2024年4月からブロードウェイでの本公演が始まりました。すぐに同年の第77回トニー賞に他部門ノミネートされ、作品賞・演出賞など4部門を見事受賞しました。
製作にあたっては女優アンジェリーナ・ジョリーがプロデューサーとして参加しており、トニー賞授賞式で作品賞を受賞した際、ステージ上にアンジェリーナの姿もありました。
私もずっと観たいとは思っていたものの、トニー賞受賞の影響もあってかしばらく人気もチケット代も非常に高く...、つい先延ばしにしていましたが、ようやく観に行きました。
話題の時期を逃してしまいましたが、感想などお伝えしたいと思います。
1. 基本情報
作品名:The Outsiders(アウトサイダー)
作詞作曲:Jonathan Clay, Zach Chance and Justin Levine
脚本:Adam Rapp and Justin Levine
監督:Danya Taymor
劇場:Bernard B. Jacobs Theatre (242 West 45th Street, New York, NY)
観劇日時:2025年8月20日 午後7:30〜10:00
この劇場では以前ミュージカル「Parade」を観ました。
約1000席の中規模な劇場で、基本的にどこからでもステージが見やすくなっていると思いますが、私が座ったオーケストラ席の後方は傾斜があまりなく、私の前の人の座高が高くて頭が邪魔でした(苦笑)。


2. あらすじ
前半
1967年、オクラホマ州のタルサ。
14歳の少年ポニーボーイは、2人の兄ダレル、ソーダポップと暮らしている。3人は両親を事故で亡くし、長兄のダレルが仕事に就いて家族を養っている。
彼は貧しい若者のグループ「Greasers(グリーサーズ)」に入り、仲間のジョニーやリーダーのダラス(ダリー)とつるんでいる。Greasersは、裕福な若者のグループ「Socs(ソッシーズ)」と対立している。
ポニーボーイはチェリーという女の子と親しくなるが、彼女はSocsのリーダーのボブと付き合っており、ボブはポニーボーイに目をつける。
ある夜、ポニーボーイとジョニーはボブらSocs一味に襲われ、ジョニーは身を守るためにボブをナイフで刺し殺してしまう。ポニーボーイとジョニーはダリーの助けで逃亡し、教会に身を隠す。
後半
教会での潜伏生活でポニーボーイとジョニーは絆を深める。教会が火事になり、2人は取り残された子供達を救出する。勇敢な行動で2人は英雄視されるが、ジョニーは重傷を負う。
タルサではGreasersとSocsが決闘する。激しい喧嘩の末Greasersが勝利するが、直後にジョニーが息を引き取る。ダラスはジョニーにナイフを渡したことに自責の念を感じ、列車に身を投げて自殺する。
大事な仲間を失ったポニーボーイは絶望するが、2人の兄の愛情を感じて心を開いていく。一連の出来事について物語を書く。
3. 感想など
あらすじから分かるとおり、「ウェストサイド物語」や元ネタである「ロミオとジュリエット」と非常に似たプロットになっています。ただし、「アウトサイダー」は若い男女の悲恋ではなく、貧困や格差問題、社会から外れた若者の不満や苛立ち、彼らの友情といった要素に主眼を置いています。
主人公ポニーボーイの淡い初恋の場面もありますが、全体的には極めて男くさく青くさい(笑)お話になっています。
大事な仲間達が死んでゆく悲劇ではあるものの、彼らの生きた証をポニーボーイが書き留める形で永遠に残すという、未来に希望を感じさせる終わり方になっています。
音楽はフォークやカントリーをベースにしていました。更に、キャスト達が中西部のアクセントで歌ったり話したりして、正直聞き取りづらいところもありましたが、舞台である中西部オクラホマの雰囲気がよく出ていました。
冒頭でポニーボーイが舞台背景や登場人物を紹介する「Tulsa ’67」という歌や、後半でジョニーがポニーボーイに対して歌う「Stay Gold」などが印象に残りました。
「Stay gold.」とは、ジョニーが死ぬ間際に残す最後の言葉で、本作のキーフレーズになっています。直訳すると「輝き続けて」とかになりますが、よくよく調べてみると、この言葉はポニーボーイが暗唱していたロバート・フロストの詩「Nothing Gold Can Stay」から来ていて、その詩での「Gold」は若さ・純粋さといった意味合いを持っています。ですので、「青春を忘れないで」「純粋なままでいて」といった訳の方がニュアンス的に近いようです。
ちなみに、映画版にも「Stay Gold」というテーマ曲があり、スティービー・ワンダーによる美しいバラードなのですが、ミュージカル版の「Stay Gold」とは異なります。
キャストはほぼ青少年・少女で、彼らの歌や演技は若いエネルギーに溢れていました。
主人公ポニーボーイ役のBrody Grantは、その演技に14歳ゆえの繊細さ・ナイーブさがよく出ていたと思います。実際は20代中盤の俳優だそうです。なお、25年9月21日を持ってポニーボーイ役を降板するとのこと。
それから、弟達を養うために働く長兄ダレル(Brent Comer)と、お調子者ながらポニーボーイに優しい次兄ソーダポップ(Jason Schmidt)の2人が印象的でした。彼らのポニーボーイに対する愛情が胸に迫りました。兄弟愛も本作のテーマのひとつだと思います。最初の方でシャツを脱いでいるソーダポップのムキムキの体も見どころです(笑)。
映画版の主要キャストは皆白人らしいのですが、このミュージカルではダリー役に黒人の俳優(Alex Joseph Grayson)が、ジョニー役にネイティブアメリカンをルーツに持つ俳優(Sky Lakota-Lynch)が配役されていました。映画を見ていない私は全く違和感を感じず、むしろ配役が本作での貧困や格差といった問題を効果的に描き出しているように感じました。ネット上では、これは今流行りのColor-blind Casting(人種を意識しない配役)というより、人種を積極的に考慮して配役するColor-concious Castingだという意見もありました。(Color-blind Castingについては、ミュージカル「The Notebook」のブログでも触れています。)
そして、私が一番特筆すべきと感じたのは、その舞台演出です。
タルサの街のシーンで郷愁を誘うようなセピア色のライティングが背景に使用されたり、地面に敷き詰められた砂利(ゴム製らしい)がキャスト達のダンスで散らばったりするなど、舞台となる場所を表現するための工夫がみられました。
特にGreasersとSocsの乱闘シーンが見事で、降り注ぐ雨、キャスト達のシンクロした動き、殴るときの効果音、ストロボ照明、全てが一体となってシーンをドラマチックに盛り上げていました。まるで、舞台で映像を観ているような錯覚を覚えました。
ステージに一番近い数列は、雨や砂利が飛んでくる「Splash Zone」と呼ばれているとのこと。そこで観るには濡れる覚悟と準備が必要そうですが、舞台の迫力をビンビン感じられそうです。
上記の演出以外にも、若い世代をオーディエンスとして意識しているのか、後半にかけて出来事がテンポよく進み、飽きさせない展開になっていました。一方で、ポニーボーイとチェリーのぎこちないデートの場面や、ポニーボーイとジョニーが教会で時間を過ごす場面では、セリフのない静寂が続くところもあり、緩急をうまく織り交ぜていたように思いました。
様々な演出が奏功したのか、他のミュージカルに比べて観客の年齢層が若かったようにみえました。
私はもう一度観たいと思いました!今度はSplash Zoneで?
