オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」鑑賞



メトロポリタン(メット)・オペラで「オルフェオとエウリディーチェ」というオペラを観劇しました。一般的にはそんなに知られていないオペラだと思いますが、私も観るまで名前すら知りませんでした。18世紀にドイツで生まれ、オーストリアで活躍したグルックという作曲家によるオペラの代表作だということです。


このオペラで特筆すべきことのひとつは、カウンターテナー(女性の声域を持つ男性歌手)が主人公のオルフェオ役(男)を演じる点です。本作が初演されたときは、カストラートと呼ばれる去勢された男性歌手がオルフェオ役をやったそうです。以前「カストラート」という映画を観た方もいるかもしれませんが、近代以前(17〜18世紀頃)のヨーロッパではカストラートはかなり人気を博したようです。もちろん現在カストラートは人道的観点から廃止されています。


最近私がYoutubeを見ていると、このオペラのコマーシャルが何度も流れてきたこともあり...興味が沸いたので観てみることにしました。


なお、私が観に行った6月8日の公演は、メット・オペラの2023〜2024年シーズンの最終公演でした。


1. 基本情報

  • 作品名:Orfeo ed Euridice(オルフェオとエウリディーチェ)
  • 作曲: Christoph Willibald Gluck(クリストフ・ヴィリバルト・グルック)
  • 演出:Mark Morris
  • 指揮:J. David Jackson
  • 観劇日時:2024年6月8日 午後1:00 〜 2:45(3幕、休憩なし)
  • 劇場:Metropolitan Opera (30 Lincoln Center Plaza)


休憩なしで2時間弱の比較的短いオペラです。

2. あらすじ

登場人物は、オルフィオ、エウリディーチェ、愛の神の3人。とってもシンプルなお話です。


オルフィオは、妻エウリディーチェの死を墓前で嘆き悲しみ、何とか生き返らせたいと祈る。愛の神が現れ、彼が妻を連れ戻すために冥界に行くことを許すが、地上に戻るまで決して彼女を見てはならない、という試練を与える。

冥界に入ったオルフィオは死霊たちに取り囲まれるが、竪琴と歌で彼らを静める。遂にエウリディーチェを発見すると、その姿を見ないように手を取って地上へ向かう。

エウリディーチェは夫が自分を見ようとしないことに不安を抱き、ついて行くことを止める。オルフェオは耐え切れずに振り向いて妻を見てしまい、その瞬間エウリディーチェは絶命する。オルフェオが絶望し自ら命を絶とうとすると、再び愛の神が現れ、「真の愛が示された」としてエウリディーチェを生き返らせる。二人は抱き合って喜び、神に感謝する。


3. 感想など

音楽

グルックがこのオペラを作曲・初演したのは1762年とのことで、今も頻繁に上演される人気オペラ(モーツアルト、ワーグナー、プッチーニ、ヴェルディなど)と比べると少し古いですが、それが私には逆に新鮮に感じられました。

時代的にはバロック時代の後期に属していて、楽器にチェンバロが使われていたり、確かにバロックっぽい響きも感じました。一方で、以降のモーツアルトの音楽に見られるような古典派を彷彿とさせる部分もありました。


カウンターテナーというと、私にはアニメ「もののけ姫」の主題歌を歌った米良良一さんがまず浮かびますが、女声の音域でありながら男性の声質という、何とも言えぬ不思議な(もののけ的な、笑)印象を持っていました。

今回実際に聞いてみると、オルフィオ役を演じたカウンターテナーのAnthony Roth Costanzoさんの声、特に高音は想像していた以上に力強く、そして小さな声で歌う箇所ではとても優しく、そのダイナミクスレンジの広さに圧倒されました。


演出

今シーズンから新しいプロダクションになった「カルメン」と同様に、本公演でも現代風にアップデートされた演出になっていました。設定やストーリーが結構単純なことも踏まえてか、観客を飽きさせない工夫も随所に見られました。


例えば、オルフィオを取り巻く友人達は現代の洋服に身を包んだダンサー(歌わない)で、音楽に合わせてコンテンポラリー(?)なダンスを踊っていました。オルフィオの格好も現代的で、冥界に行ったときは竪琴でなくギターを弾いていました。


そして、愛の神は舞台の上方から宙吊りで降臨してきました。この愛の神の表情や仕草がとってもお茶目で、観客を沸かせていました。オルフィオが神の言いつけを破ってエウリディーチェが絶命したとき、愛の神が「真の愛を見せてくれたから十分よ〜!」みたいな軽い感じでエウリディーチェを生き返らせると、「生き返るんかい!」というツッコミを入れるような観客の笑いがどっと起こりました。


と、事前の準備なしでも意外と気楽に楽しめるオペラだと思いました。


最終公演

上述のとおり、この公演を以てメット・オペラの2023〜2024年シーズンは終了となりました。毎年のことですが、シーズン後の6月後半〜7月はこの劇場でAmerinca Ballet Theaterによるバレエ公演が行われ、8月中はお休みとなります。そして、9月から新しい2024〜2025年シーズンが始まります。

最後のカーテンコール・挨拶のあと、紙吹雪が会場に舞いました。

今シーズンもお疲れ様!