「Harmony」というミュージカルを観に行きました。
2023年10月にオン・ブロードウェイでの公演が始まった比較的新しいミュージカルです。以前のブログでミュージカル「A Beautiful Noise」の鑑賞記を紹介した際にも触れたのですが、「Harmony」が始まった頃から私は観てみたいなと思っていました。
1920〜1930年代にドイツのベルリンで活躍した男性コーラスグループの実話に基づいており、音楽はシンガー・シングライターのバリー・マニロウによって作曲されました。とは言っても、バリー・マニロウのヒット曲によるいわゆるジュークボックス・ミュージカルではなく、彼がこの作品のためにオリジナルの曲を書き下ろしています。
1. 基本情報
作品名:Harmony (A New Musical)
脚本・作詞:Bruce Sussman
作曲:Barry Manilow
監督:Warren Carlyle
劇場:Ethel Barrymore Theatre (243 West 47th Street, New York, NY)
観劇日時:2023年12月30日 午後2:00 〜 4:30
https://harmonyanewmusical.com
「Harmony」の公演が行われているバリモア劇場は、約1000席の中規模ブロードウェイ劇場です。今年このブログで紹介した「Some Like it Hot」や「A Beautiful Noise」の劇場と同じく、Shubert Organizationという組織によって運営されており、やはり年季を感じさせる劇場です。
2. あらすじ
ラビというユダヤ人の老人男性が、語り手として人生を振り返るところから始まる。
1927年、ベルリンで「Comedian Harmonists」という名前の6人組男性ボーカルグループが結成され、ラビはその一員になる。程なくグループはヨーロッパ中で人気となり、何百万枚ものレコードを売り上げ、映画にも多数出演する。1933年にはニューヨークのカーネギー・ホールでの公演も行う。
しかし、故郷ドイツではナチスが台頭して政権を握り、ユダヤ人への迫害が始まっていた。Comedian Harmonistsはメンバーのうちラビを含む3人がユダヤ人であり、それ以外の1人もユダヤ人女性と結婚していた。彼らは徐々に活動の場を失うことになり、ついに解散に追い込まれる。ユダヤ人メンバーはドイツ国外に脱出し、それ以外のドイツ人メンバーは国内で散り散りになる。その後6人全員が再会することはなかった。
3.感想
1930年代のベルリンが舞台と聞いて、ミュージカル「キャバレー」と同じ時代設定であることを思いました。話がどのような展開になるのか、何となく想像ができます。
本作の主人公であるComedian Harmonistsは実在したコーラスグループであり、その名前のとおりコミカルなパフォーマンスをしていたようで、ミュージカルの前半はユーモアいっぱいの面白い場面も多く、その後の流れを予期させないほどでした。それが後半になり、ナチス・ドイツの影響力が強まるに従って、どんどん暗く重い内容になります。
正直、観終わった後は気持ちもズーンと重くなりました。泣いている観客もいました。折しも現在イスラエルのガザ地区でイスラエル軍とハマスの戦闘が行われている中、民族間の憎しみが絶えることはなく、そして戦争の犠牲になるのはいつも一般の人達であることに、虚しさ・無力感を覚えました。
ただ、悲しい時代に翻弄されながらも活躍したComedian Harmonistsというグループの存在を知ることができて良かったと思える作品でした。
バリー・マニロウ(今更ながらロシア系ユダヤ人だった知りました)が作った音楽と、それを歌う6人の男性キャストの歌声は、それぞれに素晴らしかったと思います。
バリー・マニロウと言えば甘くメロディアスなバラード曲の印象が強いですが、本作では1920〜30年代という時代背景を反映してか、彼自身のヒット曲から連想されるような音楽とはかなり違うと思いました。それでも、随所に胸を打つようなメロディがありました。
年老いたラビ役を演じたのは、Chip Zienという舞台俳優です。私は知らなかったのですが、Chip Zienは70年代から長い間舞台で活躍していて、ブロードウェイの重鎮のような方らしいです。最後の方で、老人ラビが当時の苦難について感情を絞り出すように歌うシーンがあり、全体の中でも山場だったかもしれません。本作のレビューを見ても、Chipの名演を賞賛する意見がたくさんありました。
ただ、あくまで私個人の意見として、老人ラビの歌が結構長く続いたので、それより若い6人の美しいハーモニーをもっと聴きたかった...と正直思いました。
6人の歌声が織りなすハーモニーは彼らの強い絆・友情を表しているようで、ユダヤ人迫害が強まる中で彼らが解散を余儀なくされ、二度と一緒に歌えなくなるという事実に、胸が締めつけられるようでした。
残念ながら、本作のブロードウェイ公演は今年の2月4日を以て終了してしまうようです。
私は昨年12月30日のマチネ公演へ行き、2階メザニン席に座ったのですが、メザニン後方には結構空席がありました。スケジュールを見ると、夜公演の他にマチネ(昼)公演を週3回もやっていて、頻繁にやっているから観客の入りもこんなものかな?と思ったのですが、やはりテーマが重いだけにロングランとはいかなかったのでしょうか。
ということで、終演まで残りわずかとなりましたが、興味のある方はお早めに。