「Maybe Happy Ending」は韓国発のオリジナルミュージカルで、2016年にソウルで初演され、韓国で数々の演劇賞を受賞しました。私は知らなかったのですが、日本でも2017年と2020年に上演されたのだそうです。
ニューヨーク・ブロードウェイでは、2024年10月からのプレビューを経て、翌11月より公演が始まりました。開始から徐々に評判が高まり、2025年の第78回トニー賞では、ミュージカル部門の最優秀作品賞、脚本賞、主演男優賞などを含む計6部門受賞という快挙を成し遂げました。
温かくも切ないラブストーリーとして良い評価を聞いていたので、当初から観に行きたいと思っていたのですが、トニー賞受賞の影響でしばらくチケットが取りにくくなっていました。最近ようやく人気も落ち着いてきたのか、割引チケットも手に入るようになり、今回鑑賞しました。
1. 基本情報
作品名:Maybe Happy Ending
作曲:Will Aronson
作詞:Hue Park
脚本:Hue Park, Will Aronson
監督:Michael Arden
劇場:Belasco Theatre (111 West 44th Street, New York, NY)
観劇日時:2025年11月1日 午後7:00〜8:45 (休憩なし)
この劇場は44丁目と6番街の交差点の近くにあります。約1000席を収容する中規模の劇場で、周辺の他の劇場と同様に古い歴史があります。
以前ブログで紹介したミュージカル「Girl from the North Country」もこの劇場で上演されていました。
2. あらすじ
舞台は近未来の韓国、ソウル。
旧式ヘルパーロボット3型のオリバーは、主人のジェイムズが戻って来る日を待ちながら、主人が好きだったジャズを聴き一人で暮らしている。ある日、隣の部屋に住む旧式ヘルパーロボット5型のクレアが、充電器を借りにオリバーを訪ねてくる。やがて、充電器を貸し借りを通じて二人は次第に親しくなる。
オリバーはジェイムズに会うために済州島(チェジュ島)へ行こうとし、クレアも済州島でしか見られない蛍を見たいと言い、一緒に旅行に出かける。ところが、オリバーがジェイムズの実家を訪ねると、彼は既に亡くなっていた。二人は一緒に蛍を見に行く。
ソウルに戻った二人はお互いを愛しているという感情に気づく。しかし、クレアの調子が悪くなりバッテリーの寿命が近づいている。いつか終わりが来ることを悟った二人は、これ以上辛い思いをしないよう、お互いが出会って以降の記憶を削除する決断をする。
オリバーは以前と変わらない暮らしをする。そして、クレアが充電器を借りにオリバーの部屋を訪れる...
3. 感想など
事前に聞いていたとおり、ほっこりと切ない気持ちにさせてくれるミュージカルでした。ロボットが主人公のお話でありながら、人間的な感情を呼び覚ましてくれました。派手な演出やドラマチックな展開で盛り上げる典型的ブロードウェイ・ミュージカルとは一味違う作品になっています。
それにしても、音楽(Kポップ)や映画に続き、韓国発のエンタメパワーの勢いを感じさせてくれます。ただ、本作は韓国文化を強く押し出すような内容ではなく、どの文化にも共通するであろう普遍的な感情を描いていて、その点も高評価に繋がっているのだろうと思いました。
音楽の特徴としては、冒頭からジャス調のナンバー(「Why Love?」など)が要所要所で使用され、それを歌う男性歌手も登場して、お洒落なムードを醸し出していました。古いスタンダードなジャズ音楽が使われているのかと思いきや、それが本作のオリジナル曲であると後で知りました。
主人公のオリバーとクレアが歌う曲は、ポップでありながらどこかジャズ的な要素もあり、伴奏にストリングスが多用されていて、洗練された響きがありました。オリバーが日常を歌う「World Within My Room」や、二人が記憶を消す前に歌うタイトル曲「Maybe Happy Ending」など印象的な曲がありましたが、私は特に「Goodbye, My Room」という曲のメロディに胸がキュンとなり、観劇後もずっと心の中で歌い続けていました。きっと日本人好みのメロディだと思います。
舞台演出も素晴らしかったです。ステージ上の箱型のセットの中で、隣り合うオリバーの部屋とクレアの部屋が交互に移動するように出現し、二人の暮らす閉じられた世界を効果的に表現していました。
ただし、正面から最もよく見えるように設計されているため、奥行きのある部屋の中で進行する二人の演技が時々壁に遮られ、観客席の両端からは見切れてしまいます...。舞台全体の演出を堪能するためには、できれば観客席の中央部の席を取るのがおすすめです。
また、外の景色や二人の記憶を映し出す際にプロジェクションが使用されていて、音楽や照明とも調和しながら近未来的な世界観を演出していました。プロジェクションの効果的な使用は昨今の舞台演出のトレンドでもあると思います。
それから、観た人の間で評判が高いのが済州島での夕暮れの蛍のシーンです。観てのお楽しみということで詳細には触れませんが、とても幻想的でロマンティックな演出でした。
ブロードウェイでの当初の配役は、オリバー役がフィリピン系アメリカ人のDarren Criss、クレア役が中華系アメリカ人のHelen J. Shenでしたが、2025年9月にオリバー役はアメリカ人のAndrew Barth Feldmanに交代しました。これには、韓国が舞台の作品の主人公に白人(非アジア人)が起用された点で批判もあったようです。
私が観たのはAndrew Barth Feldmanのオリバーで、とてもロボットっぽく(笑)よく演じていたと思いますが、やっぱりDarren Crissのオリバーも見てみたかったなぁと思っていたら、なんと11月5日からDarren Crissがオリバー役に戻ってきたとのこと…!もう一度見に行くべきか。
ちなみに、Darren Crissは本公演のプロデューサーでもあるそうです。
舞台に登場する主なキャストは、オリバー、クレア、オリバーの主人ジェイムズ、そしてジャズシンガー(Gil Brentleyという名前)の4人だけ。基本的にとてもシンプルで狭い世界のお話です。
大勢での合唱やダンスシーンなどもありません。そのため、ブロードウェイ・ミュージカル特有の華やかさや煌びやかさには欠けます。そこが本作の弱点と言えるかもしれませんが、同時に他の作品と一線を画す特徴でもあると思いました。
そして、そんな狭い世界で限られた時間を生きる二人のラブストーリーを途切れなしの一幕で見せるのも適切な演出だと感じました。(これから観に行く人は、休憩がないことに留意して先にトイレなど済ませておいて下さい!)


