メトロポリタン・オペラ(メット)によるモーツァルトの「魔笛」を観に行きました。私にとって2023年最後のオペラ観劇でした。
メットでは、毎年12月末(クリスマス〜大晦日)に全編英語で2時間弱に短縮された「魔笛」の公演をやっています。子供達も楽しめるようファミリー向けに改編されたものです。メットと同じリンカーン・センターの敷地内にあるDavid H. Koch劇場では、年末恒例のバレエ「くるみ割り人形」の公演をやっており、年の瀬のリンカーン・センターは家族連れの観客で溢れ返っています。
「魔笛」は、モーツァルトが人生の最後に完成させたオペラであり、よく知られた歌も複数あって、人気のオペラのひとつとなっています。
1. 基本情報
- 作品名:The Magic Flute(魔笛)
- 作曲: Wolfgang Amadeus Mozart(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト)
- 演出:Julie Taymor
- 指揮:Patrick Furrer
- 観劇日時:2023年12月26日 午後7:30 〜 9:20(休憩なし)
- 劇場:Metropolitan Opera (30 Lincoln Center Plaza)
この短縮版は休憩なしのノンストップですので、注意が必要です!
2. あらすじ
舞台は古代エジプトのとある国。主な登場人物は6人です。
①王子タミーノ
②タミーノにお供するパパゲーノ
③タミーノと結ばれる娘パミーナ
④パパゲーノと結ばれるパパゲーナ
⑤パミーナの母、夜の女王
⑥夜の女王と敵対するザラストロ
以下は簡単なあらすじです。(上記のとおり、この短縮版公演は2幕に別れていません。)
第1幕
王子タミーノは大蛇に襲われるが、夜の女王の侍女3人に助けられる。通りかかった鳥刺しのパパゲーノは、助けたのは自分だと嘘を付くが、侍女達によって口に鍵を掛けられる。
侍女達が女王の娘パミーナの絵姿を見せ、タミーノは一目惚れする。そこに夜の女王が現れ、娘パミーナが悪人ザラストロに捕らえられたことを嘆き、タミーノに救出を依頼する。王子は侍女から「魔法の笛」を受け取り、口の鍵を外してもらったパパゲーノも「魔法の鈴」を受け取り、一緒にザラストロの神殿に向かう。
タミーノとパパゲーノは離れ離れになるが、パパゲーノが先にパミーナを見つける。一方、神殿に着いたタミーノは、実はザラストロが偉大な祭司であり、夜の女王の方が悪人であると知らされる。
タミーノが吹く魔法の笛に導かれてパパゲーノとパミーナがやって来る。タミーノとパミーナはザラストロの前で遂に対面し、互いに惹かれあう。
第2幕
ザラストロはタミーノに、パミーナを得るための様々な試練を授ける。ついでにパパゲーノも恋人を得るために試練を受けることになる。
パミーナのもとには復讐に燃える夜の女王が現れ、パミーナにザラストロを殺すよう命じ、逆らえば親子の縁を切ると言って去る。
「沈黙」の試練では、沈黙を守るタミーノに対し、事情を知らないパミーナは愛想をつかされたと嘆き悲しむ。パミーナは一度は自殺しようとするが、やがて試練に立ち向かうタミーノと合流する。タミーノは話すことを許され、パミーナと共に魔法の笛で他の試練を乗り越える。
一方のパパゲーノは、沈黙の試練に辛抱できずに脱落するが、魔法の鈴の力を借りて娘パパゲーナと出会い、恋人同士になる。
夜の女王は、侍女達とともにザラストロの神殿に襲撃を試みるが、雷に打たれ地獄に落ちていく。
ザラストロは試練に打ち勝ったタミーノ、パミーナ達を祝福し、神々を讃える。
3. 感想
あらすじだけを追うと、最初は悪人と紹介されたザラストロが実は善人であったり、少し複雑です。宗教的なものを感じさせる展開もあり(ザラストロの神殿のシーンは、怪しい新興宗教の儀式のようでもありました笑)、当時モーツァルトが所属していたという「フリーメイソン」(宗教団体ではありません)の影響を受けていると言われています。
が、王子タミーノとパミーナ、そしてお供のパパゲーノとパパゲーナが結ばれるまでの恋物語と捉えると、ぐっと親しみやすいお話になります。本公演では、子供の観客を意識してか、おちゃらけキャラクターであるパパゲーノの言動や物語にかなり焦点を当てていたように思いました。
「魔笛」の有名な歌というと、夜の女王のアリア「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」、パパゲーノの「娘か可愛い女房が一人」(色々な訳があるようですが)、パパゲーノとパパゲーナの「パパパの二重唱」などがあります。どれも、モーツァルトの伝記映画「アマデウス」の中で使用されていますし、聞いたことがある人も多いでしょう。
特に、夜の女王のアリアは超絶技巧を要する難しいソプラノ楽曲です。超高音が続く箇所で、私は正直ドキドキしながら聴いていましたが(プロのオペラ歌手に対して失礼かもしれませんが…)、夜の女王役のKathryn Lewekさんは素晴らしく歌い上げて大拍手が起こりました。衣装もとても奇抜で、体を大きく見せるためか背中に羽のようなものを付けていて、以前の紅白での小林幸子の大衣装を彷彿とさせるようでもありました。
パパゲーノの歌はとってもコミカルかつチャーミングで、改めてモーツァルトの音楽の素晴らしさや普遍性を感じました。「パパパの二重唱」は、昔「パナップ」という名前のアイスクリームのコマーシャルに使われていて、私はこの歌を聞くたびにそのコマーシャルを思い出してしまうのですが(笑)、今も覚えている人はどのくらいいるでしょうか…?
年末のメットの風物詩となっているこの「魔笛」。モーツァルトの音楽はもちろんのこと、舞台のセットや衣装も豪華絢爛で楽しめます。オペラの初心者にもおすすめできる公演だと思います。
もし、年末にニューヨークに滞在するような機会があれば、ショーの選択肢のひとつとして検討されてみてはいかがでしょうか?