ミュージカル「Illinoise」「Water for Elephants」など


2024年6月16日に第77回トニー賞の授賞式が行われました。授賞式で披露されたパフォーマンスを見て興味を持ったミュージカル作品の中から、「Illinoise」と「Water for Elephants(サーカス象に水を)」という新しいミュージカルを観に行きました。どちらも今年の最優秀作品賞にノミネートされました(惜しくも受賞はならず)。


ここ最近、色々なミュージカルやダンスパフォーマンスを観ているのですが、ブログに感想を書くのが追いつかず...、ここでは二つの作品の感想を合わせて紹介します。


Illinoise

1. 基本情報

作品名:Illinoise
作詞作曲:Sufjan Stevens 
脚本:Justin Peck and Jackie Sibblies Drury

監督・振付:Justin Peck

劇場:St. James Theatre (246 W 44th St., New York, NY)

観劇日時:2024年6月22日 午後8:00 〜

https://illinoiseonstage.com



「Illiinoise」は、スフィアン・スティーヴンス(Sufjan Stevens)というシンガー・ソングライターが2005年に発表した同名アルバム「Illiinoise」の曲をベースに制作されたミュージカルです。ちなみに、私はスフィアンさんのことも彼の音楽も全く知りませんでした...。

本作はダンス・ミュージカルというジャンルに属し、セリフのないダンサー達のダンスによってストーリーが進行します。スフィアンの楽曲は別のシンガーによって歌われます。

ジャスティン・ペックという振付師(映画「ウエスト・サイド・ストーリー(2021年版)」の振付などを担当)が本作の振り付けを担当し、脚本にも関与しているそうです。

ブロードウェイでは2024年4月24日に公演が始まりましたが、8月10日までの限定公演となっています。つまり、あと少しで公演終了ですので、興味がある方はチケットをお早めに!


2. あらすじ

イリノイ州のとある森でキャンプファイヤーを囲む若者達が、それぞれの子ども時代の思い出を語り合う。
物語のメインは、ヘンリーというゲイの青年が最後に語るお話。イリノイ州で育ったヘンリーにはカールとシェルビーという男女の幼馴染がいた。ヘンリーはカールに密かに想いを寄せているが、カールはシェルビーと愛し合っている。

カールとヘンリーは二人でニューヨークへ車の旅に出る。ヘンリーはニューヨークでダグラスという青年に出会い、恋に落ちる。カールはシェルビーが病気になったと聞いて故郷に戻るが、シェルビーはやがて亡くなり、愛する人を失くしたショックでカールも自ら命を断つ。

ヘンリーは大切な友達を失って絶望するが、キャンプファイヤーで出会った若者達はヘンリーが勇気を持って語ってくれたことに感謝する。そこにヘンリーを探しに来たダグラスが合流し、二人は共に人生を歩んでいくことを確かめ合う。


3.感想

最初に書いたように「Illiinoise」はダンス・ミュージカルなので、登場人物を演じるダンサーは踊りのみで感情を表現し、セリフを喋らず歌も歌いません。ステージ後方の上部にシンガーやミュージシャンが配置され、楽曲を演奏していました。

バレエなどのダンスパフォーマンスを鑑賞するのが好きな方であれば、このミュージカルもきっと楽しめると思いますが、パフォーマーが歌い踊る典型的なミュージカルを期待している場合は、注意が必要かもしれません。ダンス鑑賞が大好きな私は、ダンサー達が繰り広げる美しくダイナミックな動きに圧倒されました。


(話が逸れますが、私が今年5月に観たスティングの楽曲による「Message In A Bottle」というミュージカルも、ダンス・ミュージカルでした。「Message In A Bottle」ではステージ上にダンサーのみで、歌はスティングによる歌唱の録音でしたが、次々に流れるスティングの有名曲と、それに合わせた迫力あるダンスを楽しました。)


「Illiinoise」の振り付けを担当したジャスティン・ペックはNew York City Ballet(NYCB)の振付師ということで、やはりバレエをベースにしたダンスになっていると思いました。振り付けに対する批評家が意見は分かれたとの批評もありましたが、私は専門的なことは分からないので、結局それぞれの好みの問題じゃないかと思います。ジャスティンはこの「Illiinoise」で今年のトニー賞振付賞を受賞しました。


スフィアンのアルバム「Illiinoise」の楽曲を知っていればショーを更に楽しめるでしょうし、歌からストーリー展開がある程度分かるかもしれません。私は全く知らなかったので、鑑賞前に大まかなあらすじを予習しましたが、登場人物(ダンサー)が喋らないこともあり、予習しておいて良かったと思いました。

シンガー達の歌唱はブロードウェイ特有のハキハキした歌い方ではなく、何というかフォークなスタイルだったので、歌われる内容をからあらすじを理解するのは私には難しかったです。



Water for Elephants(サーカス象に水を)

1. 基本情報

作品名:Water for Elephants
作詞作曲:PigPen Theatre Co.
脚本:Rick Elice

劇場:Imperial Theatre (249 W 45th St, New York)

観劇日時:2024年7月7日 午後3:00 〜

https://www.waterforelephantsthemusical.com



「Water for Elephants(サーカス象に水を)」は、同名のベストセラー小説が原作で、映画化もされていますが、今回ミュージカル化されました。サーカス団のお話で、とても煌びやかな舞台になっています。2023〜2024年のシーズンでは最も予算のかかったブロードウェイ・ミュージカルとのこと。

ニューヨーク・ブロードウェイでは、2024年2月のプレビューを経て、3月21日より本公演が開始されました。


2. あらすじ

介護施設で暮らす老人ジェイコブが、激動の若かりし日を回想するところから始まる。

大恐慌時代。両親を事故で失ったジェイコブは、行くあてもなく列車に飛び乗り、そこでサーカス団長のオーガストに誘われてサーカス団に入る。ジェイコブは団長の妻マレーナと一緒に、サーカスが新しく買った象のロージーの調教を担当するが、そのうち二人の間に特別な感情が生まれる。オーガストは酒癖が悪く、動物にもマレーナや団員にも暴力を振るうので、ジェイコブは心を傷める。

ジェイコブはマレーナと駆け落ちしようとするが、見つかってサーカスに連れ戻される。象ロージーは今やサーカスの主役となったが、ある日の公演で団員の仕業により動物達が脱走し、大混乱に陥る。混乱の中、オーガストはマレーナとジェイコブを殺そうとするが...。


3.感想

サーカスが舞台のミュージカルだけあって、とても迫力のあるステージになっていました。実際にサーカスのパフォーマーが参加しているそうで、アクロバットな芸をたくさん披露してくれました。

ちなみに、私は子供の頃から体操競技(Gymnastics)が好きで、今でも個人的にGymnasticsのクラスに通ったりしています。その分余計に、サーカス団員にとっては簡単なバク転や宙返りのような技であっても動きの美しさに感心し、技のひとつひとつに目が離せませんでした。



馬や象などの動物も出てくるのですが、見せ方に工夫があり、「ライオンキング」の演出を彷彿とさせました。象のロージーは、最初の調教のシーンでは鼻だけが出てきて、残りの部分は影によって表現されたりしていましたが、後半の興行シーンでは全身で(4人の黒子による)舞台に現れ、観客から大きな歓声が上がっていました。

ちなみに舞台美術を担当しているのは方剛(Takeshi Kata)さんという日本人の方で、本作でトニー賞の舞台美術賞にノミネートされました。惜しくも受賞は逃したようですが、快挙ですね。

主役のジェイコブ役を演じるGrant Gustinは、ドラマシリーズ「Glee」で有名になった俳優です。しかし、私が観た公演では代役の俳優さんがジェイコブ役を演じていました。正直少し残念でしたが、代役(Ken Wulf Clark)はとても素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。主役の代役をこなすのはものすごいプレッシャーだと思いますが、拍手喝采でした。

なお、Grant Gustinが演じるのは9月1日が最後になるとの発表がありました。


サーカスの表舞台は煌びやかですが、その裏で虐待される動物、要らなくなると列車から捨てられる団員など、闇の部分も描かれています。当時のサーカス興行はヤクザのような人達が仕切っている世界だったんだろう、ということが想像できます。(動物を調教して芸をさせること自体が虐待だという見方もあるでしょうが。)

おそらく小説や映画ではそういった闇の部分も深く描かれているのではないかと推察しますが、このミュージカルでは華やかなサーカスを通して人生における冒険や希望といったものに焦点を当てているように感じました。


本ミュージカルの紹介文に「… if you choose the ride, life can begin again at any age… 」とあります。何も持たずに列車に飛び乗った若き日のジェイコブ、そして始まった激動のサーカス生活、年老いた彼が最後にとった選択まで、彼の生き方から人生の可能性を感じることができ、観劇後どことなく勇気が沸いてくるような、そんな気分にさせるミュージカルでした。