ミュージカル「The Great Gatsby」鑑賞


F・スコット・フィッツジェラルドが1925年に発表した小説「The Great Gatsby(邦題:華麗なるギャツビー)」は、狂騒の1920年代のアメリカを描いた名作として有名ですが、近年ミュージカル化されました。2023年にニュージャージーでプレミア公演が行われ、2024年4月にニューヨーク・ブロードウェイでの本公演が始まりました。

この小説は、1974年にロバート・レッドフォード主演、2013年にレオナルド・ディカプリオ主演により映画化されていて、それぞれ大ヒット作となっています。映画を観て知っている人も多いでしょうし、どちらの映画でも主人公ギャツビー役を当代きっての二枚目俳優(という言い方はもう古いのか?)が演じていて、そのイメージがかなり強いのではないかと思います。


これだけ有名な作品が最近までミュージカル化されていなかったというのも結構驚きですが、あの世界観がミュージカルでどのように表現されるのか?ギャツビーがどのように演じられるのか?...など、興味津々で観劇しました。


1. 基本情報

作品名:The Great Gatsby
作曲:Jason Howland
作詞:Nathan Tysen
脚本Kait Kerrigan
監督:Marc Bruni

劇場:Broadway Theatre (1681 Broadway, New York, NY)
観劇日時:2025年8月30日 午後8:00〜10:30

https://broadwaygatsby.com

このブロードウェイ劇場は53丁目とブロードウェイの交差点にあり、劇場が集中する44〜45丁目辺りからは少し外れていて、幾分落ち着いたエリアになります。約1800席を収容する比較的大きな劇場です。



2. あらすじ

前半

舞台は1922年のアメリカ。語り手のニック・キャラウェイは中西部からニューヨーク郊外のロングアイランドに越してくる。

彼は、いとこのデイジーとその夫で大学時代の友人でもあるトム・ブキャナンの家に招かれる。そこでデイジーの友人のジョーダン・ベイカーとも知り合う。また、デイジーとトムの結婚生活がうまくいっておらず、トムにはマートルという愛人がいることを知る。

ニックは、謎の隣人で大富豪のジェイ・ギャツビーからパーティーに招待され、ジョーダンと一緒に参加する。豪華なパーティーの渦の中、ギャツビーはニックを呼び出し、昔の恋人だったデイジーに秘めた想いを抱き続けていることを打ち明ける。

ニックの仲介でギャツビーとデイジーが再会し、二人の間で愛が再燃する。ニックもジョーダンと付き合い始める。

後半

ギャツビーとデイジーが逢瀬を重ねて愛を深める中、トムは二人の関係に気づく。

みんな(ギャツビー、デイジー、トム、ニック、ジョーダン)でプラザホテルに出かけた際、ギャツビーはデイジーとの関係を明らかにするが、トムはギャツビーの出自や怪しい商売を暴き立て、デイジーの心を揺さぶる。

帰り道、ギャツビーとデイジーの乗った車が誤ってマートルを轢き殺してしまう。運転したのはデイジーだったが、ギャツビーは彼女を守るため罪をかぶるとニックに語る。

マートルの夫はトムから「マートルを轢いたのはギャツビーの車だ」と聞き、ギャツビー宅に侵入して彼を射殺する。

ギャツビーの葬儀に参列した友人はニックだけで、パーティーに群がっていた客人は現れない。

デイジーはトムと共にハワイへ旅立つ。全てに失望したニックは中西部へ戻る決意をする。


3. 感想など

一言で言うなら、派手で煌びやかなステージを楽しめるミュージカルです。

小説や映画で「華麗なるギャツビー」を知っている観客が期待するであろう世界観を中々うまく表現していると私は思いました。1920年代のアール・デコ調の豪華な舞台セットに、当時のアメリカの上流階級のゴージャスな衣装(特に女性)。背景のプロジェクションやセットの切り替えによる目眩く場面転換。特にパーティーの場面では、キャスト達がチャールストン風ダンスやタップダンスで開放感を発散し、本当の火花まで飛び出てきて、これでもかと言うくらいの視覚効果で舞台を盛り上げていました。



一方、視覚的な豪華さに対して物語の描き方に深みが足りない、といった批評もあるようです。確かにキャラクターの掘り下げが浅く、全体的に軽い感じだったのは否めませんでした。特に、前半はロマンチック・コメディのノリで話が進んだので、終盤に向かってギャツビーが破滅していく悲劇性が薄まったように感じました。

ただ、原作小説で描かれるアメリカン・ドリームの光と影、ギャツビーの夢の探究と破滅、階級格差といったテーマを実質2時間のミュージカルの中で表現するように求めるのは酷な話かもしれません。映画版に対してもやはり似たような(豪華絢爛だが中身が薄い的な)批評はあったようです。

ミュージカルのあらすじは大枠では小説と同じだったと思うのですが(詳細はあまり覚えてない...)、ミュージカルでは主役ギャツビーとデイジーの愛の行方と並行してニックとジョーダンのロマンチックな関係もサイドストーリー的に描かれており、小説の中でニックとジョーダンが付き合っていたという記憶がなかった私は驚きました。観劇後に調べてみると、小説にも二人が一時的に恋愛関係だったような描写があるものの、大きな比重は置かれていないようです。ロマンチックな展開で盛り上げる演出だったのかもしれませんが、個人的にはその分物語の核心(ギャツビーのデイジーへの愛)に割く時間が減り、描き方が浅くなってしまったようにも感じました。


音楽は、舞台となる1920年代の「ジャズエイジ」を反映して、ビッグバンドによるジャズがベースになっているようでしたが、キャスト達の歌は意外に現代的なポップス調でした。

ギャツビーがデイジーへの秘めた想いを歌い上げる「For Her」や、デイジーが心の葛藤を歌う「For Better or Worse」などの壮大なバラードが耳に残りました。ギャツビー役のRyan McCartanとデイジー役のAisha Jacksonは、それぞれに力強い歌声を会場に響かせていました。(オリジナルキャストのギャツビー役Jeremy Jordanとデイジー役Eva Noblezadaの歌が素晴らしかったとの評判もありましたが、彼らの歌声はレコーディYouTubeなどで聴くことができます。)


主人公のギャツビー役に相応のカリスマ性があったかと言われると正直...ですが、冒頭に書いたように映画版で演じたスター俳優達の印象が強いこともあって、この役を演じるのは荷が重いだろうと思います。歌唱は素晴らしかったです。

ニック役のMichael Maliakelも良かったのですが、とても背が高くて頭が小さく、彼との比較でギャツビーや他のキャストの顔が大きく見えるのが気になってしまいました(笑)。インド系の俳優さんで、本作に出演する以前はミュージカル「Aladdin」のアラジン役をやっていたそうで、それはハマり役だっただろうと思わせるようなルックスでした。


せっかくニューヨークに来たのでとにかく煌びやかなミュージカルを観たい!という方にはお勧めです。また、原作小説を読んだり映画版を観たりした方は、自分なりのイメージが出来上がっているかもしれませんが、ミュージカル版を観て比較してみるのも面白いかもしれません。