ニューヨークの魅力のひとつ、ブロードウェイミュージカル!私も、ミュージカル大好き!などと人には言っておきながら、長年ここに住んでいると、正直そうしょっちゅう観に行くこともありません。そのうち、今何が上演されていて何が人気なのか、さっぱり分からないように...
という訳で、自分のミュージカル熱を取り戻すべく?この度「Dear Evan Hansen」を観に行ってきました。
1.基礎情報
作品名:Dear Evan Hansen(ディア・エヴァン・ハンセン)
作詞作曲:Benj Pasek & Justin Paul
脚本:Steven Levenson
劇場:Music Box Theatre(239 W 45th St, New York, NY 10036)
受賞歴(トニー賞):2017年ミュージカル作品賞、脚本賞、楽曲賞、主演男優賞、助演女優賞、編曲賞
母子家庭で育った思春期の高校生エヴァン・ハンセン。人とコミュニケーションが上手くできない彼は、ちゃんとした友達もなく、母親とも微妙な関係なのですが、同級生が自殺したことから、ソーシャルメディアを巻き込んで生活が一変していくことに...(詳しいあらすじは以下で。)現代社会を生きる人が持つ悩みや孤独を描き出すミュージカルです。
いくつかの試演を経て、2016年12月より現在の劇場で公演されているようです。2017年のトニー賞で作品賞を含む6部門を受賞!したほど評価された作品なのに...私はつい最近まで名前を聞いたことある程度でした。(ミュージカル大好き!なんていう資格ありませんね。)
興味を持ったきっかけは、私が所属しているコーラスで、このミュージカルの曲のひとつ「You Will Be Found」を最近歌う機会があったからです。「ええ曲やな~」と思って調べてみると、ミュージカルのお話もなんか面白そう!ということで、チケットを購入しました。始まって3年近くになる今でも結構人気のミュージカルで、割引チケットはほとんど見つかりませんでした。
なお、今のところニューヨーク、米国ツアー、ロンドンのみで、日本での公演はまだ行われてないようです。
2.あらすじ
前半
エヴァン・ハンセンは17歳の高校生。母親のハイディと二人で暮らしている。
彼は社会不安障害があるためにセラピーを受けており、その課題で自分自身宛てのポジティブな手紙を書くように勧められている。”Dear Evan Hansen…”と言う書き出しで...
エヴァンは木から落ちて腕を骨折しギブスを付けている。学校で会った同級生達(女子のアラナと男子のジャレッド)にギブスに何か書いてもらうよう頼んでみるが、断られる。別の同級生のコナー・マーフィーには突き飛ばされ、その妹ゾーイ・マーフィーがエヴァンに謝る。エヴァンは密かにゾーイに恋心を抱いていた。
(「Waving Through A Window」をエヴァンが歌う。)
ある日、学校でエヴァンがセラピーの課題である自分への手紙を書き上げ、印刷したところ、たまたまそこに居たコナーに手紙を読まれ、手紙を持ち去られてしまう。
しかし、そのコナーが突然自殺してしまう。コナーのポケットには、エヴァンが書いた“Dear Evan Hansen…”で始まる手紙が入っていた。コナーの友達のことなど聞いたこともない両親(母シンシアと父ラリー)は、コナーがエヴァン宛てに書いた手紙だと勘違いする。
シンシアは、エヴァンにコナーとの話を色々聞かせてほしいと頼む。悲しむシンシアの姿を前に、エヴァンはコナーと親友だったと嘘をついてしまう。ジャレッドに協力してもらって、コナーとの架空のメールのやり取りも捏造する。
エヴァンは架空のメールをマーフィー家のみんなに見せる。シンシアは喜ぶが、ラリーとゾーイは複雑な心境になる。
さらに、みんながコナーのことを忘れないよう、また彼のような人を支援するため、エヴァンはジャレッドやアラナと一緒に「コナープロジェクト」を立ち上げる。立ち上げのイベントで、エヴァンはスピーチをすることに。しどろもどろになり、途中で泣いてしまうが、やがて孤独とコナーとの友情に触れた感動的なスピーチは、ネットで配信され一気に拡散されていく。
(エヴァンのスピーチから「You Will Be Found」に入る。)
後半
エヴァンはコナーと過ごした(嘘の)思い出の場所、閉鎖中のりんご園を再開するため、「コナープロジェクト」のサイトで募金を募る。
エヴァンはマーフィー家によく通うようになり、コナーの両親からは息子のように迎え入れられる。ゾーイとの仲もどんどん近づいていき、付き合うことになる。嘘をついたことで手に入った、今まで夢見ていたような生活。
一方、エヴァンは母ハイディにマーフィー家との関係や「コナープロジェクト」のことを何も話さず、距離を置くようになる。ジャレッドとの距離もますます広がっていく。
そのうち、アラナがエヴァンとコナーのメールに矛盾を見つけ、エヴァンはジャレッドにメールを修正するよう頼むが拒否される。エヴァンは二人の友情が本物であることを証明するため、コナーのポケットにあった手紙のコピーをアラナに送る。アラナは、エヴァンの許可なくこの手紙をネットで配信してしまい、瞬時に拡散されていく。
手紙を知った世間の人々は、コナーの自殺の原因が彼の家族にあると思うようになり、マーフィー家を非難し始める。エヴァンは、コナーとの思い出が全て嘘であることを遂にマーフィー家のみんなに打ち明ける。
(エヴァンが「Words Fail」を歌う。)
エヴァンが家に帰ると、母ハイディが待っていた。ハイディは、ネットに掲載されたコナーからエヴァンへの手紙は、セラピーの課題でエヴァンが書いたものだと気づき、エヴァンの苦しみを知らなかったことを謝る。エヴァンは、他にも嘘をついたと打ち明け、木から落ちて腕を折ったのも、事故ではなく自殺未遂だったことをほのめかす。ハイディは、エヴァンの父が家を出て行った日のことを話し、エヴァンが自分を必要としているときは必ずそばにいると約束する。
1年後。エヴァンは、真実を打ち明けたあの日以来初めてゾーイと連絡を取り、「コナープロジェクト」で再建したりんご園で再会する。エヴァンは自分の嘘を謝り、マーフィー家が自分の嘘を誰にも話さなかったことに感謝する。ゾーイはエヴァンのことを許す。
エヴァンは改めて自分自身宛てに手紙を書き始める。
3.自分の感想
「Dear Evan Hansen」は正直地味なミュージカルです。多くの人気ミュージカルの見どころである派手なダンスやパフォーマンスは劇中に全くありません。(ちょっと飛び跳ねるくらい。)ステージのセットもいたってシンプル。登場人物は9人だけ。深刻なテーマのプレイ(演劇)の中に歌が挿入されているような感じかも。
このように、いわゆるメガヒットミュージカルの要素はないにも関わらず、非常に心に迫るミュージカルでした。未だにチケットが売れ続けているのは、多くの人がエヴァンや彼を取り巻く登場人物の思いに共感できるからじゃないかと思います。
いくつかの点にまとめてみました。
音楽が素晴らしい
ディア・エヴァン・ハンセンの音楽は、Benj Pasek & Justin Paul(パセック&ポール)という若手のソングライターチームが作詞作曲しています。近年は、ポップ音楽のアーティストが新しいミュージカルを結構書いているようですが、本作もとてもポップで耳なじみの良い歌ばかりです。中でも代表曲といえば、やっぱり前半2曲目の「Waving Through a Window」や前半最後の「You Will Be Found」でしょうか。ミュージカルから切り離して、曲単体でも成立するような良曲です。
パセック&ポールは、映画「ラ・ラ・ランド」や「グレーテスト・ショーマン」の音楽も手がけていて、今最も勢いのある二人組ソングライターです。間違いなく新しい世代のミュージカルの担い手になるでしょう!私は一度パセック&ポールの二人を見たことがあるのですが、いたって普通の気のいい兄ちゃんという感じでした。
演技も素晴らしい
本作が扱うテーマは結構重いのですが、最初からマシンガンのような早口で喋りまくる主役のエヴァンはもちろん、他の全ての出演者達も最後までエネルギーいっぱいに演じていたと思います。観る方にも体力が要ります。
もともとオリジナルでエヴァン役をやっていたBen Platt(ベン・プラット)はトニー賞で主演男優賞を受賞し、ネットでもその演技を絶賛した記事が溢れていますが、2017年のうちに降板してしまったようです。一度生で見てみたかったです。
ただ、今回私が見た公演でエヴァン役をやったAndrew Barth Feldmanという俳優さんも本当に素晴らしかった!本作がブロードウェイデビューだそうで、気になって調べてみたらなんとまだ16歳!!同じ世代の男の子の役を演じてるんですね。テンパって早口になる喋りも、オドオドしてぎこちない様子も、嗚咽して泣くところも、その感情が痛いくらいに伝わってくるリアル感でした。それでいて歌も上手い。泣きながら歌い上げるところなんて難しいだろうに、すごい才能だなぁと思いました。(一方で、16歳なのに毎晩こんな遅い時間まで働いていいの?と余計な心配したり...)
誰もが共感できる孤独や弱さ
どんな人にも、自分に味方が誰もいないように思えて、孤独や自分の弱さを感じた経験が多かれ少なかれあるんじゃないかと思います。ギブスに名前を書いてくれないかと頼んでも、誰も書いてくれないときのエヴァンの気持ち。息子が「コナープロジェクト」やマーフィー家のことを何も話してくれない母ハイディの気持ち。その母に素直になれず、つい責めてしまうエヴァンの気持ち。他にも色々なシーンがありましたが、自分の学生時代をふと思い返したりしながら、ヒリヒリするような心の痛みを共感していました。
決してゴージャスではない、そして爽快に楽しい訳でもないこのミュージカル。でも、観客をすっかり感情移入させてしまうパワーがあるミュージカルだと思います。後半では、会場のあちこちからすすり泣きが聞こえていました。
劇場
ミュージカルの内容の話ではないですが、Music Box Theatreはオン・ブロードウェイミュージカルの他の劇場と比べると小さめで(1000席くらい)、その分どこの席であっても舞台をかなり近くに感じられると思います。私は2階のメザニン後方の席だったのですが、傾斜がかなりあるせいもあってステージがよく見えました。一方で、1階オーケストラ席を見てみると傾斜があまりなかったので、自分の前にでっかい人が座っちゃったら...(泣)
中にはこんな感想も...
ここは長くなりそうなので、後日...(汗)
4.おすすめする人
正直、ミュージカル初心者やあまり見たことない人にお勧めはしないかもです。以下のような人にはお勧めします。観た感想を教えてほしいです。
- テーマやストーリーを知って興味を持った人
- 曲をいくつか聞いてみていいな!と思った人
- 思春期の少年少女
- 思春期の子を持つ親
- 子供でも親でもないけど、何だか孤独を感じている人
- 英語を早口でも理解できる人(もし英語がダメなら、しっかりストーリーを予習して行って下さい!)
あぁ、ミュージカルって本当にいいものですね!それでは〜。