「Buena Vista Social Club(ブエナビスタ・ソシアルクラブ)」は、キューバに実在したローカルバンドの歴史をライブ演奏と共に振り返るミュージカルです。
1990年代、キューバの老ミュージシャン達によるバンド「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」のアルバムが世界中でヒットし、ワールドツアーも行われました。アメリカではグラミー賞を受賞し、さらに同名のドキュメンタリー映画も制作されるなど、大旋風を巻き起こしました。映画をご覧になった方も結構多いのではないでしょうか。
本ミュージカルは、2023年にオフ・ブロードウェイの舞台で初演され、2025年3月にブロードウェイでの公演が始まりました。2025年の第78回トニー賞では最優秀作品賞を含む10部門でノミネートされ、主演女優賞など計5部門を受賞しました。
私は「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」という名前に聞き覚えはあったのですが、このバンドの音楽を聞いたことはなく、ドキュメンタリー映画を観たこともなく、そもそもラテン・ミュージック自体に明るくないので、あまり知識も先入観もなく鑑賞しました。
1. 基本情報
作品名:Buena Vista Social Club
作詞・作曲:Various Artists
脚本:Marco Ramirez
監督:Saheem Ali
劇場:Gerald Schoenfeld Theatre (236 West 45th Street, New York, NY)
観劇日時:2025年12月3日 午後2:00〜4:10
ジェラルド・ショーンフェルド劇場は1000席以上を収容する中規模の劇場です。以前ブログで紹介したミュージカル「The Notebook」もこの劇場で上演されていました。
2. あらすじ
舞台はキューバのハバナ。1950年代と1990年代を行き来しながら物語は進行する。
1996年、アメリカ人の音楽プロデューサーがハバナを訪れ、現地のミュージシャンを集めてキューバ音楽のアルバムを制作しようとする。伝説的な女性歌手オマーラにヴォーカルを依頼するが、彼女は中々引き受けてくれない。
1950年代、若き日のオマーラは姉と二人でハバナのキャバレー「トロピカーナ」で歌っていた。一方、彼女は地元のクラブ「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」の力強い音楽に魅了され、そこでギタリストのコンパイやピアニストのルーベン達と親交を深め、歌手のイブライムと恋を育んた。
しかし、キューバ革命の混乱の中、オマーラの姉はアメリカに亡命し、「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」は閉鎖されてバンド仲間とは決別した。孤独になったオマーラは音楽への情熱も失ってしまった。
約40年の時を経て、ブエナビスタ・ソシアルクラブのメンバーと再会したオマーラは、セッションを通じて音楽への情熱を取り戻す。アルバムのレコーディングが始まる。やがて、彼らが奏でる音楽は世界的な成功を収める。
3. 感想など
とにかく、パワフルで情熱みなぎるキューバ音楽の生演奏に圧倒されっぱなしでした。リズムに乗って一緒に踊り出したくなるような陽気な曲が多いのですが、歌声からは何とも言えない哀愁も感じられました。
歌の合間にギター、パーカッション、フルートなど各楽器のソロが入ったりして、まるでライブコンサートでミュージシャン達が紡ぎ出す音楽を楽しんでいる感覚もありました。
楽曲は全てスペイン語で歌われます。でも、各キャストのセリフは全て英語で話されるので、歌詞の意味が分からなくてもストーリーを追う上で支障はありません。さらに、各曲の制作背景を記載した冊子(英語)がPlaybillに付いてくるので、より深く知りたい人には参考になります。
主役のオマーラ役は、オフ・ブロードウェイ公演からずっとNatalie Venetia Belconという女優が演じていて、今年のトニー賞で主演女優賞を受賞しています。ただ、私が鑑賞したマチネ公演では代役のSophia Ramosという女優が演じていました。迫力のある素晴らしい歌唱だったと思いますが、Natalieの歌唱も聴いてみたかったです。
また、若き日(1950年代)のオマラ役を演じたIsa Antonettiはスラッとした綺麗な女優さんでしたが、歌い出したらすごく迫力があってそのギャップに驚きました。
その他のキャスト・演奏者も、まるで体そのものが楽器のような素晴らしい演奏を聞かせてくれました。
ダンスの振り付けには、Justin Peckという振付師が関わっています。New York City Ballet出身のダンサー・振付師なのですが、様々なバレエ公演のほか、映画「West Side Story」や、以前このブログで紹介したミュージカル「Illinoise」などで振り付けを担当しています。そして、今年のトニー賞では本作で最優秀振付賞を受賞しました。
アフロ・キューバンのダンスを基盤にした振り付けとのことですが、音楽と一体化して舞台の興奮を一層高めていたように感じました。
もともとラテン系の音楽が好きな人も、私のようにあまり知らない人であっても、情熱的な音楽の演奏・歌唱にどっぷり浸って楽しむことができると思います。観客は終始ノリノリでした。
そして、観終わった後もキューバのリズムがしばらく頭から離れなくなるでしょう!

本編とは関係ありませんが、カーテンコールの後でキャストからBroadway Cares/Equity Fights AIDS (BCEFA)への寄付の呼びかけがありました。

