ミュージカル「The Notebook」 鑑賞


ニューヨークの今年の夏は、かなり涼しい日が続いています。

そんな中、「The Notebook」というミュージカルを観に行きました。ブロードウェイでは2024年3月から公演が始まっています。同タイトルの小説が原作で、2004年には映画化もされています(邦題は「君に読む物語」)。私の周りからは結構良い評判を聞いていたので楽しみでした。


1. 基本情報

作品名:The Notebook(ノートブック)
作詞作曲:Ingrid Michaelson 
脚本:Bekah Brunstetter

監督:Michael Griff and Schele Williams
劇場:Gerald Schoenfeld Theatre (236 West 45th Street, New York, NY)
観劇日時:2024年8月21日 午後2時〜

https://notebookmusical.com/

ブロードウェイ劇場街には古い劇場が多いですが、中でもこのジェラルド・ショーンフェルド劇場はかなり年季が入っています。約1000席の中規模な劇場。座席の幅が比較的小さく、大柄な人にはちょっときついというレビューもありました...


2. あらすじ

とある療養施設で暮らす認知症の老女のもとに、老人男性が訪ねてくる。彼はノートに書かれた恋物語を彼女に読み聞かせる...。

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舞台は1940年のアメリカ南部シーブルック。地元の青年ノアは、避暑にやってきた裕福な家族の娘アリーと出会う。二人はお互いに惹かれあい恋に落ちる。ノアは古い屋敷にアリーを連れていき、ここをいつか買い取りたいという夢を語る。だが、アリーの両親は二人の仲を認めず、短い夏の恋は終わる。

やがて、戦争が始まりノアは徴兵され、アリーは裕福な弁護士と婚約する。戦争から戻ったノアは、父親が買い取ってくれた古い屋敷を改築する。そこへ、結婚式を控えたアリーが訪ねてくる。二人が会えない間ノアはアリーに365通の手紙を出していたが、アリーの母親に没収されて届かなかったことが明らかになる。アリーはノアのもとへ戻る決心をする。

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物語を読み聞かせる老人男性はノアであり、認知症の老女はアリーだった。二人は病室のベッドで手をつないで横になる。翌朝、施設のスタッフはアリーとノアがベッドで冷たくなっているのを発見する。


3. 感想など

若い男女の恋愛と、それに立ちはだかる障害やすれ違い、やがてその記憶すら消えてしまうという悲しいラブストーリーですが、結末に微かな救いも感じさせてくれます。既に観た人から「泣けるよ〜」という感想を聞いていましたが、私も最後に実際うるっと来てしまいました。

私達アラフィフ世代の多くは、年老いていく両親の世話、介護、死といった問題に向き合っています。同世代で集まると、どうしてもそういう話題が増えていきます。両親のみならず、自分自身の老いすら避けられない年齢でもあります。そのためか、ノアとアリーが思い出を手繰りよせるように迎える最期を、身につまされる思いで見ていました。


ただ、非常に混乱させる演出がありました。主人公のアリーとノアの青年期(Young)、成人期(Middle)、老年期(Older)を3組の俳優が演じるのですが、その3人の人種が違うのです!具体的には以下のとおりです。

アリーノア
青年期 (Young)黒人(ラティーノにも見えました)白人
成人期 (Middle)黒人白人
老年期 (Older)白人黒人

もちろん登場人物の人種設定についてアレコレ言いたい訳ではないのですが、同一人物なのに途中で人種が変わるのは想定外で、「あれっ、これは別のカップル...?」と戸惑ってしまいました。

これは意図的な演出だったようで、Colorblind Casting(肌の色の違いを考慮しない配役)などと呼ばれるものだそうです。このショーの舞台監督は「Race is not the story; you’re seeing the spirit of who they are.」とコメントしています。登場人物の肌の色(見た目)ではなく精神を描こうとした、という感じでしょうか。

私のように予習をしていない観客は混乱するだろうと思いますが、この配役を採用することは勇気の要る挑戦だったでしょうし、こういう挑戦がミュージカルの持つ可能性を押し広げてくれるのかもしれません。

過去と現在を行き来しながら舞台は進行しますが、世代の異なる3組のアリーとノアが同時に出てきて歌うシーンもありました。それぞれの世代が抱く想いが時を超えてハーモニーを織りなしていくようで、ここでようやく3世代を別の俳優が演じる必要性が分かった気がしました。本作の核となる演出だったかもしれません。

音楽はシンプルかつ美しく、センチメンタルな気分にさせてくれました。ハイライトの一つは、Middleアリー(Joy Woods)が歌う「My Days」という歌だと思います。本作がアメリカ南部を舞台にしているためかカントリーチックな歌が多い中で、この歌はMiddleアリーがパワフルに歌い上げていました。

ステージ前方にバンドがいなかったので、演奏は録音なのかな〜と思っていたのですが、一番最後の方で舞台後方の幕が上がりバンドが現れるという粋な演出で、観客からは拍手喝采でした。


それから、本筋とは別ところで個人的に印象に残ったのは、ノアのお世話をする療養施設の若い男性の役でした。いつも笑顔であっけらかんとして少し間の抜けた役柄なのですが、彼が喋る度に観客の笑いが起こり、それが介護や認知症という辛い現実を中和してくれる役割を果たしているようでした。どの国でも高齢化の進行は避けられませんが、彼のように常に楽観的でいて物事を深刻に捉えすぎない姿勢が、我々の心を救ってくれるのかもしれないなどと考えました。


登場人はそれ程多くなく、決して派手な舞台ではありませんが、時を超えて続いた二人の愛の物語が美しいハーモニーと共に語られ、観る人の胸にジーンと染みわたるようなミュージカルでした。

この感想を書いている間に、今年の12月15日にてブロードウェイ公演が終了するとのお知らせがありました…(涙)私としてはおすすめなので、機会があれば是非観に行ってみて下さい。

カーテンコールの後、バンドだけが残ったステージ